Soilwork/Stabbing The Drama  (ASIN:B00076MU32)

このバンドは一曲目がいつも非常に強力なんだけれども、本作は#1「Stabbing The Drama」がやや地味、続く#2「One With The Flies」も今一つと言う事もあって、最初に聴いた時は何となく流しているうちに終わってしまって、インパクトの薄さにかなり疑問を覚えた。が、中盤から後半にかけて持ち直してくるし、解りやすい派手さは抑えられている代わりに、メロディやリズムには一層の練りこみと工夫が見られる聴き応えのある作りになっていると思う。
サポートドラマーにダーク・ヴェルビューレン(Scarve)を迎えた本作は、贅肉を極限まで落としたかのような恐ろしくソリッドな音に仕上がっている。機械じみた正確さと鋭すぎる無慈悲さを備えつつ、ミドルテンポではグルーヴィで粘度の高い腰の据わったプレイでバンドサウンドを強力に牽引するドラムの破壊力は圧巻。バンドサウンド全体に関しても、ドラムの音と同様に轟然としていて生々しくもあれば冷たく非人間的なニュアンスも孕んでいて、機械的なのに滑らか、メランコリックなのに醒めたドライな手触りのある音像に封入された空気それ自体がすごく格好良い。ひたすら硬質な音を叩き付ける作りとなった分、前二作で印象的だったキーボードとコーラスによる濃密で奥行きのある空間表現はここでは抑えられているが、それでもキーボードの無機質でいながら憂いを含んだ音はバンドサウンドの隙間を埋めながらにサイバーなニュアンスを付け加える、とても良い仕事をしている。
ブルータルに叫びながらもしっかり人間味を残していたり、リズム良く畳み掛けて声だけでグルーヴを出したり、サビの歌い上げでは声に派手なエフェクトをかけなくてもどこかデジタルな印象を与える美しくも無機的な歌い方をして見せたり、ふいに虚飾を廃した生の声を聞かせたり、とヴォーカルの表現力は更に増している。デスヴォイスとクリーンな歌い上げとを全く同一線上のものとして自由自在に操り、攻撃性とポピュラリティを同レベルで表現出来るヴォーカルは、もはや唯一無二の存在感を放つところまで来ていると思う。サビのメロディも、前作のような一発で耳が覚えるようなインパクトはやはり薄れているものの非常に良く練られていて一度耳に馴染むととても心地良く響いてくるものが多いし、メロディと楽曲自体との噛み合せも良い。#3「Weapon Of Vanity」や#5「Nerve」での今にも壊れそうなほど美しく繊細な手触り、#8「Observation Slave」の中間で出て来るポップと言っても過言でないほどのメロディ、前作に近い雰囲気を持つ#7「Distance」や#9「Fate In Motion」のメランコリックで深みのある音使い等は、聴き込む程に面白みと良さが感じられてくる作り。また、#6「Stalemate」では初期を思わせる2ビートの凶暴な突進を、#10「The Blind Halo」ではブラストビートまで使った圧倒的な斬撃を炸裂させていて、これら二曲がアルバム全体のテンションをぐっと引き上げる役割を果たしている辺りには楽曲の出来だけでなく曲順の妙も感じさせる。序盤の二曲はやはりどうしても聴いていて印象が弱いものの、それ以降の曲はいずれも彼らが今まで築いてきた音楽性でもって一分の隙なく鍛え上げられている。ヘヴィでラウドな音楽の全てを睥睨しつつ自らの存在を誇示するかのような、渾身の一枚。
だが、聴いていてどうも物足りなさを感じるところも多い。既聴感が漂うリフが多い事、正メンバーでないドラムの仕事がアルバムを引っ張っている事、ボーナストラックの#13「Killed By Ignition」が蛇足で締めがビシッとしない事にも疑問を覚えるが、それ以上に、前作までのように「彼ららしさ」の範囲を大きく広げようとする気概、思い切った試みがさほど見られなかったところに物足りなさの原因がある、と思う。過去のアルバムにはいずれも聴いていて意表を突かれるような逸脱が、そしてその逸脱を見事に己のものにしてしまう吸収力の高さが見られたが、本作にはそれが無い。今までを総括しつつ自らのスタイルの完成形を示す見事な一枚だし、更に広いステージを目指す意志も確かに感じられる非常に優れたアルバムだとは思うが、目を見張るような新しさが感じられない、と言うのはやはり残念だった。


追記。ダーク・ヴェルビューレンは正式にメンバーになったんだろうか。ライナーにはそう書いてあるがクレジットを見ると完全にそうなったわけではないようだし、その辺がどうもはっきりしない。