Syrup16g/Delaydead  (ASIN:B0002T20UW)

過去の曲を今の状態で録音したものを集めたアルバムで、アルバムタイトル通り(このシニカルなネーミングはすごく良いと思う)「Delayed」と同様の意味合いを持つ一枚。名作、と言われるミニアルバム「フリースロウ」の曲も再録されている。
何と言うか、投げっ放しのアルバム。これと言って手も入れていない、そのままのメロディとバンドサウンド。それがここまで豊かな音楽になる、と言うのがこのバンドの魅力だと思う。
多彩な曲が収められているのは前作「Mouse To Mouth」と同じ。ただ、前作のその多彩さは曲調にせよアレンジにせよ丁寧に作りこまれた結果と言うか、ある程度計算ずくだったのに比べて、本作は単に手持ちのカードをあまり考えないままで片っ端から切っている感覚に近い。キーボードの音なども殆ど無く、一発録りであるかのような3ピースのバンドによる簡素なアレンジ、平熱の演奏。だが、それでも……と言うかそれだからこそ、メロディが剥き出しになっていて、聴き手を惹きつける力が備わっている、と思う。
#9「もういいって」や#14「明日を落としても」のような、投げやりで諦観に満ちた言葉が耳に刺さる曲。#8「真空」や#5「Heaven」辺りの攻撃的な曲に宿る、どこかヴィジュアル系のそれにも通ずるような切迫感と耽美な風合い。#2「Inside Out」や#7「翌日」のポジティヴで開放的な雰囲気。#11「エビセン」#15「きこえるかい」のような、アコースティックな色合いが強く、美しいメロディほぼ無加工のままポンと聴き手の目の前に放り投げられる曲。そして、#1「クロール」に#3「Sonic Disorder」と必殺のサビメロを持つ曲。矢継ぎ早に、と言うにはかなりルーズで普段着な雰囲気のままに繰り出される15曲は、その全てが素晴らしくポップ。一度聴いたら耳に残るようなメロディが惜しげもなくざらざらと並べ立てられる様には、飾り気がないだけにバンドの自信が感じられる。
過去の曲を再演しているからなのかどうかは解らないが、妙にテンションが低いと言うか自分達の曲なのにあまり熱が篭っていないような手触りは、どの曲にも共通してあるように思う。また、歌詞とメロディの結び付きがさほど強くなく、詞と歌との間に少々距離があるようにも感じられるため、歌詞の切実さや説得力は、彼らのほかのアルバムよりもやや低い印象。だが、その一方でその説得力の低さが楽曲の敷居を低くする事に繋がっていて、結果的に彼らのポップセンスを際立たせているような気もする。気を楽にして楽曲の妙味をゆったり味わえるアルバム、と言うか。
聴きながら感想を書いていて、本作についてはあまり書く事が無いな、と思う。単に良いメロディが過不足のないアレンジと美しい歌声と適度に荒削りながらもタイトな演奏(バンドサウンドは本当にしっかりしている。特にベースは相変わらず格好良い)で紡がれている、と言うだけのアルバム。造りは何とも素っ気無いのに、曲は本当にポップで粒揃い。