Caliban/The Opposite From Within  (ASIN:B0002T1ZT4)

クリアで分離の良くなった音作り、鋭さと弾力性を増して歯切れの良くなったリズム。一聴して、メジャー感がグッと上がった、と感じた。バンドサウンドの一つ一つの要素がそれぞれに底上げされて、全体の鍛え上げがなされた印象。また、前作でも場面場面で聴かれたクリーンな歌い上げがほぼ全曲で取り入れられていて、キャッチーさも大幅にアップしている。
ヒステリックで余裕のない切迫感と極めて尖鋭的で攻撃的な邪悪さが魅力であった反面、どこか喉で歌っているような線の細さも感じられたヴォーカルが、クリーンなコーラスでの歌い回しの巧みさと言い、咆哮している時の深みや低音部がきっちり出ている安定感と言い、大きく成長している。絶叫と歌とが強固な両輪をなしてバランス良く展開されているので、とにかく聴きやすく、耳残りが良い。また、叙情的で美しいメロディの出来が……と言うか曲全体が非常に良く出来ていて、#2「Goodbye」のメロディの組み合立て、センチメンタルなコーラスが美味しい#4「Standup」、リフとリズムとヴォーカルのコンビネーションが身体を強烈に揺らすミドルテンポの#10「Salvation」など、優れた曲が多い。リズムのキレ味も増していて、轟然と突っ走る部分と腰を低く落として腕をブン回すモッシュパートの切り替えも巧みだと思う。前作を聴いた時も、曲に抑揚を付けて一気に聴かせる事には長けていると感じたが、その辺りの上手さは更に磨き込まれていると思う。
ただ、解りやすくキャッチーになってより多くの耳を惹き付ける力を手に入れたのは良いが、彼ら独自の魅力が保たれているかと言うと少々疑問。メロディを取り入れたことによって全体的にポジティヴな印象になり、前作に満ちていた背筋が寒くなるような冷気やモノクロームな格好良さは殆ど無くなっているし、重厚と鈍重の丁度中間、軍靴の集団がザクザク雪を踏みしめて進軍するかのような「跳ねないリズム」の魅力も、ノリの良さと引き換えに失っている気がする。刃物で血を搾り出すような金切り声の邪悪な絶叫と嘔吐の中に、焦燥感混じりの文学的なナイーヴさが一筋感じられたヴォーカルが、前述の通り成長と余裕が感じられるものになっているのも(これは個人的な好みの問題ではあるものの)、少し寂しい。
全体的な質は大きく向上したのと同じくらいオリジナリティは後退、と言った感じ。非常に高品質ではあるが、メタルコアとかニュースクールハードコアとかN.W.O.A.H.M.とかMAメタルなどと呼ばれる一連のメタルとハードコアを融合させたバンド群の中にあって、突出した個性をアピールして独自の立ち位置を確立する事は出来ていないように感じられるのが残念。前作の刺々しくダークな世界観をとても気に入っていたので、余計にそう思える。ただ、格好良いか格好良くないかで言えばこれは間違いなく格好良い音楽だと思うし、ドイツの一バンドがアメリカに打って出ると言う気概と野心に満ちた渾身の一撃でもあると思う。暴力性は上手い事コントロールされており、ギターの過剰な泣きで勝負するクセの強いタイプでもないので、この手のものの入り口としても良いかも知れない。