Oceansize/Effloresce  (ASIN:B0000ALSG1)

随分と不思議な手触りのある音を奏でるバンドだ、と思う。イギリスの5人組バンドの1st。強烈な音楽:エクストリーム・ミュージック・レヴュー(前哨戦)で最近出たEPが取り上げられているのを読み、興味を持って本作を買ってみたら自分のツボにがっちりハマる音だった。
楽曲全てがミドル〜スロウテンポでじっくりと聴かせる曲で、そのメロディは仄暗い甘さや透明感の中に一抹の寂寥感を溶かし込んだような、心にするりと入り込むもの。大雑把に括ればいかにもUK産のギターロックと言う事になる音だが、面白いのはヘヴィロック〜ニューメタルを下敷きにしたメロディ遣いや、喉を搾り出すような絶叫がそこかしこに顔を出すところ。また、音像いっぱいに広がる轟音フィードバックノイズとグリグリとヘヴィにうねる暗黒リフ・変則リズムが交互に現れるのも、バンドサウンドの底で時折ドゥーミーで怪しげな動きを見せるベースと、手数は多くないが一音一音に重さがあるドラムにこの手の音楽としてはかなりの重量感があるのも非常に特徴的。タテ方向にずっしりと響くギターリフ、ヨコ方向に広がるギターノイズが混在しており、それが聴き手に幻惑感と浮遊感を与える。
要所要所で静謐のインスト曲を挟むアルバム構成や、刻一刻と表情を変えてゆきつつも、明確な起承転結の流れと耳残りが良く美しいメロディを持つ曲作りはとても理知的。重層的なギターサウンドやリズムの作り込み具合は相当なもので、多彩な音楽要素をしっかりと消化吸収する貪欲で挑戦的なアレンジも素晴らしい。妙に引きずるような重さのあるリズムとUSモダンロックの爽快感・豊かな抑揚を持つメロディの対比が印象的な#2「Catalyst」、幻覚的な反復リズムと呪術的なヴォーカル、どろりと重い循環リフがダウナーなサイケ感触を生む#3「One Day All This Could Be Yours」、静かに始まって徐々に音圧を増してゆく(中間部のファンキーなリズムも面白い)劇的な#4「Massive Bereavement」、極めてUKロック的な湿っぽいメロディから暗鬱リフ、更にニューメタル的な激情撒き散らし型のメロディに雪崩れ込む#6「You Wish」、何かの儀式のようなタイコの音と牧歌的なメロディとスペーシーな空間処理の対比に不思議なポップセンスを感じる#7「Remember Where You Are」、ミステリアスで美しいギターノイズが炸裂する#8「Amputee」、更にアルバム終盤は8〜9分台で壮大なスケールの風景を描く大曲が三連続。曲毎に特徴がはっきりしており、どの曲も比較的長いもののメロディはキャッチーなのがとても好印象で、切なさと優しさ、明るさと暗さを微妙な陰影で描き出すメロディに身を任せているうちに、深遠なサウンドスケープに迷い込んでいる、と言う感覚がとても気持ち良い。
計算され尽くした曲構成、複雑ではあっても難解ではないと言うバランス感覚、想像力を掻き立てる音響の広がりと奥行き、バンドサウンドの強度、的確かつ意外性も併せ持つアレンジ、カラフルなギター、浸透力の強いメロディの力、リフの重さ、安易にポストロック的アプローチに逃げない潔さ。字義通りの、プログレッシヴなロックアルバムだと思う。傑作。