Scarve/Irradiant  (ASIN:B00018GZDM)

フランスの六人組メタルバンドの3rdアルバムにして国内デビュー盤。めちゃめちゃ格好良いのに何故かあまり話題に上っているところを見かけないが、このテの激音が好きならば聴いていて引っかかるところが必ずあるはず、と思ってしまう程に、このアルバムは良い。
空間恐怖症のように音像全体に轟然と響き渡るツインギター、速さ鋭さ粒の揃った正確さ音のデカさ迫力がブッ飛んでいるドラム、音像の底で全ての音を支え切るベース。そして、鋭く凶暴だが残虐性よりも非人間性が先に来るような低音デスヴォイスと、何とも奇妙かつ独特な……敢えて喩えるなら、ネジの外れた神聖さのようなものを感じさせるコーラスを担当する高音クリーンヴォイスのツインヴォーカル。以上六人が繰り出す音は、基本的にはデスメタルの範疇に入るもので、強烈なドラミングと剃刀の鋭さを持つリズムギターを超高性能のエンジンにして恐ろしい速さで突き進む強烈なサウンドが矢継ぎ早に繰り出されてゆく。
火を噴くようなブラストビートとグルーヴィなミドルパートと聴いていて身体が突っ掛かる複雑な変拍子の組み合わせ、破壊的ディストーションと虚ろに漂う不穏なクリーントーンと言う異なる音色のギターの重ね合わせ、そして清濁の触れ幅が極端に大きいツインヴォーカルの絡み合い。異なる属性を持つものがぶつかり合いながら溶け合う事で、異様な迫力とうねりが生み出されているところがとても面白く、独自性を感じさせる。様々な要素を極めて高い演奏技術と柔軟なアレンジ力で立体的に組み立てた楽曲は非常に優れており、えらくブルータルでありながらもキャッチー。タイトルトラックにして本作中最も劇的な#3「Irradiant」、Meshuggahのフレドリック・トーデンダル参加の#4「Asphyxiate」、クリーントーンのギターとブラストのコンビネーションが美しく幻想的な#5「HyperConscience」、真空に吸い込まれてゆくかのような暗い浮遊感のあるメロディラインが印象深い#6「The Perfect Disaster」等、どの曲も良く練り込まれていて、それでいて考え過ぎにもテクニカル過ぎにもならない、と言うバランスが保たれているのがとにかく格好良い。また、取り立ててデジタルな装飾音は使っていないにも拘らずサイバーな感触があるのは、恐らくはMeshuggahやSrapping Young LadやIn Flamesを手がけるプロデューサーのダニエル・ベルグストランドの手によるものだと思う。極めて正確かつ金属質な激音が整然と統率されて襲い掛かるような音作りが、演奏それ自体に機械的で近未来的な風合いを付け加えている、と言う印象を受けた。
フレドリック・トーデンダルをゲストに招いたり、ダニエル・ベルグストランドがプロデューサーである辺りから解るように、Meshuggahからの影響がかなり強く、中にはそのまんまだと思える箇所もあるにはあるが、全体的には暴虐性と理知的な側面を交錯させる事によってしっかりしたオリジナリティを築いている、と言える。コーラスを巧く使ってキャッチーさを持たせる手法には北欧メロデスやニュースクールの流れに通ずる部分もあるが、それと同時にデスメタル本来の突進力・殺傷力をも備えた、非常に強力なアルバム。一癖ある轟音が聴きたい、と言う方には特にぴったりだと思うが、とにかく解りやすい造りなのでうるさくてゴツいロック好きな方全般にお勧め出来る一枚だと思う。