デフジャム

天神の横断歩道で信号待ちをしていた時の話。ぼんやりと信号が青になるのを待っていたら、俺の後から男四人連れがやってきて、俺の斜め前辺りに並んで立った。四人とも、年のころなら(どうでも良いが、俺はこの言い回しを多分神坂一から教わったと思う)20歳前後、そのうち三人はモロにストリート系と言うかヒップホップ大好きな感じで、残りの一人は眼鏡をかけたちょっとナイーヴそうな顔立ちにカジュアルな服装。
その四人が話しているのを後ろから見ていたんだけれども、四人とも身振り手振りがすごく大きく、多い。話している間ずっとジェスチャーを取っているので、面白いなあ、と思ってしばらく見ていたら、一人が補聴器をしているのが見えた。かれらの仕草はただのジェスチャーではなくて手話だ、と言う事に、俺はその補聴器を見てからやっと気付いた。
ただ、それが解った後で見ていても、注意して見ていないと手話だと解らないほどに、本当にヒップホップの挙動を取り入れているんじゃなかろうかと思うほどに、彼らの会話にはえらくリズム感があった。四人中三人までがそれ系の格好をしている事もあって、それこそマイクリレーでもやってるかのように手話(口は動かしているので、読唇術や少々の発話もしていたのだと思う)でやりとりしているのがやたらとグルーヴィで、そして「〜〜じゃん」とか「〜〜じゃね?」みたいな砕けた語尾で話してるんだろうなあれ、と言うのが傍目から見てはっきりと解った。
信号が青になり、彼らはそのまま楽しそうに話しながら歩き去って行った。こういう感想を抱くのは妙な気もするし、ひょっとしたら彼らに対して失礼なのかもしれないが、何やらいいものを見たな、と思いつつ、彼らのとはまた違う方向に向かって俺は横断歩道を渡った。何とはなしに良い気分だった。