Elbow/Leaders of the Free World  (ASIN:B000AP2YZE)

2年ぶり、3枚目のアルバム。静謐の美を極めた前作「Cast of Thousand」より多少動的になっているが、このバンドが持つ本質的な静の部分、あるいは地味さ・淡白な風味は全くもって相変わらずなので、前作までが好きなら文句なく楽しめる内容。であると同時に、このアルバムからElbowを聴く、と言う人にとっても幾分取っ付きやすくなっていると思う。アルバムの内容とは直接関係無い事だが、Genesis「Trick of the Tail」を思い起こさせるアートワークも個人的にはとても好み。
この声で歌われると大抵のメロディは清冽さと翳りとが両方いっぺんに出て来るのではないだろうかと思えるような、瑞々しくもどことなく禁欲的な歌声。と言うのはやはりこのバンドの第一の魅力だと思う。今までも基本的に歌を立てた曲作りをしていたが、歌がより一層楽曲の前面に出てきた感じ。しっとりとした落ち着きと叙情性を保ったままでメロディの質が全体的に解りやすい方向に底上げされていて、歌だけを追って聴いていても十分印象に残るメロディが出てきたと言うのは好印象。また、リズムもはっきりとメリハリが効いたものが増えていて、硬質だがどことなく暖かいリズムと美しいメロディの絡み合いが非常に上手く行っているとも感じた。#1「Station Approach」、#2「Picky Bugger」、#4「Forget Myself」など、序盤〜半ばにかけて歌とリズムの両面において躍動的なイメージのある曲が配されていて、「Station Approach」「Forget Myself」などは大仰ではないかと思えるほどに壮大なのだけれども、ちゃんと地に足が付いていて浮ついたところがなく、説得力のある音になっているのがとてもいい。また、表題曲でもある#6「Leaders of the Free World」はこれまでになく直接的で悲壮感に溢れるメロディを持つダウナーなダンスロックで、多少アルバムの流れから浮いているきらいもあるが間違いなく本作のハイライト。
中盤までは(このバンドとしては、だが)比較的ダイナミックな楽曲が続くが、その一方で後半は前作までの雰囲気を踏襲した静かな曲が並んでいる。アコースティックな手触りのバンドサウンドと淀みなく紡がれるメロディは、聴いていると気持ちがゆっくりと鎮められるもので、まるで祓い清められた境内のような清浄で凛とした空気が広がってゆく。一聴ではさほど引っかかりのないように思えるものでも不思議と耳に残ってしまう、そんな芯の強いメロディが中心にあり、その周辺には絶妙な距離感でバンドサウンドやシンセの音が配されていて、しみじみと聴き入る事が出来る。
教会音楽やゴスペルの影響が強かった前作と同じく、あるいはそれ以上に、敬虔という言葉がぴったり来る音楽だと思う。神秘的で神々しさのある音ではなく、神々しい何かに正面から向き合う人間の姿を描写した音楽、と言うか。聴き手の姿勢を正させる、そんな本作が醸し出す清らかな空気は濃密で、何とも独特。独特な割にどうにも良さが今一つ伝わり辛い、と言う地味さはもはや確固とした個性とさえなっているように思えるが、それでも曲作りの巧さと言い実のあるスケール感と言い、これまでで最もフックのある優れたアルバムに仕上がっていると思う。上手く魅力を文章として伝えられていないのがもどかしくもあるが、これはとても良い。いつも手元に置いておきたくなる一枚。