Hawaiian6/Beginnings  (ASIN:B0009WWFB6)

ほぼ3年ぶりの2ndアルバム。相変わらずと言っていいのかどうか、このバンドが目指す方向性にはひとかけらのブレもない。徹底したスピード感、涙腺を直撃するマイナーでクサ味の非常に強いメロディ。哀愁、疾走。とにかくストレートで直截で、そして速い曲がずらずらと並ぶ。本当に一直線で、わき目も振らずに突き進む様は実に潔い。
が、極めてストレートで狙いどころを絞った楽曲の方向性が本作においてプラスかマイナスか、と言うと実は少々微妙なところ。熱い憂いに満ち満ちて疾走するメロディは常に高いテンションを保っているが、それだけにどうも似たフレーズが増えていると思う。「このバンドらしいメロディ」と「手癖っぽいメロディ」と言うのは紙一重で、その二つを分けるのは全く個々人の感覚以外の何者でもないが、自分が聴いた限りでは、本作のメロディ群はどちらかと言えば後者に近いように思えた。それから、前作「Soul」ではシンプルでスピーディな楽曲の中に差し込むギターの音色やハーモニー、リズムの切り替えで疾走感に一瞬の変化を与えてフックにする、と言うようなアレンジの巧みさ、センスの良さが非常に魅力的だったんだけれども、本作は意図的にそうしたのかと思うほどに、そういうアレンジの妙が顔を出す場面は少ない。#4「World」、#8「Rainbow,Rainbow」、#10「I Believe」と明るめのメロディを持つ曲を要所に配して変化を付けているが、アルバム全体を通じて少々一本調子になってしまっていると思う。
反面、どこを取ってもこのバンドらしさが熱く深く刻まれた一枚だと言うのが本作の強みである、と言うのも確か。芯の強さと哀しさを併せ持ち、何をどう歌っても切なさと翳りが現れるヴォーカルの声質はとても魅力的だし、テンポを落とす素振りすら殆ど見せずにひたすら前のめりの疾走を繰り返すリズム隊は、焦燥感に溢れている。どの曲も似たものが多いと前述したメロディも、裏返せば一つ一つの質は非常に高いという事であり、声自体の魅力やハーモニーの美しさ(主旋律と対旋律が描く曲線自体は本当に美しいのに、それを不安定なピッチの絶叫で崩してみせるバックヴォーカルも、とてもいい)と融合して、とてつもない扇情力、頭を振らずにはいられないスピード感と切迫感を生み出す。とにかくメロディの魅力、バンドサウンドの魅力がとことん突き詰められていて恐ろしく純度が高く、31分間を一気に突っ走って突き抜ける様は、やはり格好良い。
メロディとスピード感の相互作用が非常に強力な曲が多いため、初めて聴いた時はインパクトの強さに圧倒されたが、聴き込んでいるうちに変化に富む作風だった前作の方が好きかも知れないと思えるようになって来た。とは言え、名曲の風格を持つ#3「Goodbye Yesterday」、冒頭のリフとアルバム中最速のリズムがやたら格好良い#6「No Fantasy」、胸が締め付けられるような哀しいメロディを持つ#9「Thousand of Snow」に#10「Crime and Punishment」等など、キラーチューンは多いし、何ら迷いのない真っ直ぐな音には、聴いているこちらが思わず姿勢を正してしまうような真摯で誠実な態度が滲み出ている。彼らにしか作り得ない優れたアルバムである、というのは間違いない。