The Band Apart/Quake and Brook  (ASIN:B000803DZQ)

日本のメロディックパンクバンド、2枚目のアルバム。あちこちで絶賛されているのを読んで興味を持ったので、結局発表から一ヵ月半ほど遅れて本作を聴いた。絶賛されるのも頷ける、確かに素晴らしい内容。
ロディックパンクと言ってはみたものの、実際はその言葉が想起させる音楽性とは随分異なる手触り。確かに、メロディを主体とした軽快なパンクサウンドが基軸ではあるが、パンクと言うスタイルに何ら拘りを持っていないかのように、と言うか既存のパンクの枠組みを拡大させようとしているかのように、様々な音楽的要素が自由気ままに交錯する。軽やかな四つ打ちをメインにしたダンサブルな曲もあれば、心地良くスウィングするジャジーなパートを持つ曲もある。プログレッシヴと言うのともまた違うが奇数拍子やちょっとトリッキーなギターフレーズを前面に押し出した曲も、短い中に幾つもの展開を封じ込めた曲もある。#10「Real Man's Back」ではゴダイゴを思い起こさせるちょっと風変わりなファンクを繰り出したりもする、と非常に多彩で楽しい。それに、小回りが良さそうな印象を聴き手に与えるリズム隊も、好きに弾いているようでも緻密に計算されているようでもあるツインギターが飛び回るさまも、とにかく伸びやかと言うか健やかなのがとてもいい。楽曲の構成は複雑で、一捻りも二捻りもあるものが多いというのは少し聴けばすぐに解るが、音の根っこにある姿勢がとても真っ直ぐ。人のやらない事をしてやろう、と言うような屈折やわざとらしさ(いやまあ、思い切りそういうのを狙ったわざとらしさ、が前面に出たものも自分は大好きだったりするんですが)、勿体ぶったところがカケラもなく、ただただ自由闊達に、純粋に音楽を楽しんでいると言う空気が音像の隅から隅にまでいっぱいに詰まっているのが何と言っても素敵だと思う。
ヴォーカルの声質はとても柔らかく清涼感があり、歌われるメロディもその声質にぴったりで爽快な、ポップ極まりないもの。爽快、と言って底抜けに明るい訳でもなくて繊細さも見え隠れするが、青空に突き抜けてゆくような、日差しの下を背筋を伸ばして歩いてゆくような気持ちよさがある。それに、ぱっと聴いた時のインパクトはあっても何度も何度も聴ける耐久度がないメロディではなく、むしろ聴けば聴くほど良くなっていくような、ポップミュージックの真髄とでも言いたくなるようなある種の深みがある、とも思う。#8「Higher」のように、比較的シンプルな骨格で歌を聴かせる曲では、特にメロディの良さが際立っている。
豊富なアイデアをしっかりと楽曲の中に取り込んで形にしてみせる消化力とアレンジの巧みさ、あからさまにテクニカルと言うわけではないがしっかりとした演奏能力の高さ。無邪気に楽しんでいるだけでない豊かな音楽的素養が音から滲み出ている。基礎体力がとても高くて信頼出来る音、と言う感じ。10曲38分と非常にコンパクトだが、聴いているとその38分と言うのが実際の時間以上に短く思えるのは、どの曲も非常に質が高い上で、アルバム後半になるにつれて更に勢いが増して来るからだろうと思う。ミュージシャンシップの高さとポジティヴで自由な空気、朝を思わせる爽やかさは最近のIncubusに共通する部分が多いとも思えるが、来歴や同時代性など一切考えずに楽しめる、傑作。印象的なリフと鮮やかな曲展開を持つ#7「Violent Penetration」は特に気に入った。