特撮/夏盤  (ASIN:B00023GUSG)

タイトル通り「夏」をテーマにしたミニアルバム。確かに一応夏らしいアレンジが施されていたり、夏を舞台にした歌詞の楽曲が収められてはいるものの、そこはオーケンが率いるこのバンドの事、「似合わなくても夏は来る!」と言う煽り文句の通り、爽やかでマトモな夏らしさは無い。どこか歪んでいて可笑しくて格好悪い、でも格好良い、と言う絶妙に捻れた曲が並んでいる。
出だしの#1「アングラ・ピープル・サマー・ホリデイ」は前作の「オム・ライズ」の骨格やリフを流用していてちょっと脱力しそうになったものの、爽やかだが何かがおかしい#2「ロードムービー」、ピアノのゴリ押しが格好良い(そしてチープなシンセ音がそれをぶち壊しにするのが印象的な)#3「エレファント」に#6「海上プラネタリウム」、サーフロックなメロディに乗るジェノサイドな歌詞が何とも奇妙で、アウトロにそれまでの流れとあまり関係ないラテン風のパートが付け加えられている#5「湘南チェーンソー」、ピアノの調べとメロディの流れとヘヴィなギターの絡み合いが感動的な#4「花火」、そしてノスタルジックなレゲエ風ナンバー#7「シーサイド美術館」、収録された7曲はいずれもタイプが異なっていて、やたらとキャラ立ちが良い。また全体的にヘヴィネスは抑え目でより聴きやすい作りとなっているのも、この「夏」と言うコンセプトには合っていると思う。いつになくNARASAKIのギターソロが多く、時にサンタナ風味、時にプログレっぽいフリーキーなソロも本作の聴き所。
どの曲も印象深いが、メロディの出来には幅があってつい聴き流してしまう曲もある、シンセの音があまりに安っぽくて(これは意図的にそうしているところもあるとは思うが)聴いてて顎が落ちそうになる時がある、三柴理のピアノの割合が彼が作曲した曲以外で大幅に減っていて、ピアノソロがこれまでなら入りそうなところが全部ギターソロになっている。等など色々と気になる点は多いし、初期の頃と比べると凶悪なヘヴィネスと攻撃性が後退しているのも聴いてて少々、いやかなり食い足りなさを感じるが、妙にポップで捻じ曲がっているこのミニアルバムは、これはこれですごく面白い。楽曲に出来不出来の差が大きいのは割といつもの事だし。比較的ポップで聴きやすく、また曲数も多くないので、このバンドに興味があるならまず本作を聴いてみるのが良いかも知れない。オーケンがいるから、と言うだけの理由でなく、このバンドがどの要素を取っても唯一無二の存在である事がよく解ると思う。


特撮の曲で自選ベストを作ってみたら「夏盤」含めてどのアルバムからもほぼ均等に曲を選んでいる事に気付いた。アルバムと言う単位をバラして曲を並べると、このバンドは本当にめちゃめちゃ曲のレンジが広くて基本的にアルバムに当たり外れが無い、と改めて思う。