Open Hand/You and Me  (ASIN:B0007989MK)

アメリカのエモバンド、2ndアルバム。エモと言いつつもそう括られるバンドの多くが持つ壮大なスケール感や涙腺を刺激する刹那げなメロディ、と言った要素は希薄で、その代わりに音楽性の骨子を成すのはストーナーロックの要素。ヘヴィでどこか官能的なリフを重ねに重ねて迫っても来れば、サイケデリックなパーカッションや深い残響が眩惑を誘ったりもするし、ヂリヂリとファズの効いたギターサウンドは砂塵を飲み込んで熱く淀む砂漠の空気のよう。だが、その一方でエモと呼ばれるに相応しい甘い透明感や淡い焦燥感、それにどこか都会的でスタイリッシュな雰囲気を持ってもいる。全体的にはちょっと変り種の、だがしっかりと地に足の付いたロックンロールと言った風情。必要以上にヘヴィネスを強調せず、風通しの良い音作りにしているのも好印象で、面白いバランス感覚を持ったバンドだ、と感じた。
14曲で41分、と言うのはいかにもアメリカのメインストリームの流儀に則った構成。そのため、ぐるぐると循環するリフが神経に回りそうになったと思った途端に曲が終わる、と言う物足りなさを最初は感じもしたが、数回聴いているうちに気にならなくなった。と言うか、一曲一曲がそれぞれ短くてポップな楽曲として独立しているが、曲間が割合短く設定されている上にどの曲も持っている空気には共通したものがあるので、刻一刻と表情を変える一編の組曲として捉えられなくもなく、反復による高揚を旨とするストーナーロックの色合いはアルバム一枚をひとつなぎとして考えた時にこそ強く現れてくる。このアルバム構成が非常に巧みで、良い意味でどの曲がどんな曲調だったかを強く聴き手に印象付けないところがあるので、ついつい繰り返し聴いてしまう麻薬的な魅力がある、と思う。
そう言った構成の妙は、勿論優れた個々の楽曲の出来に支えられたもの。アップテンポでドライヴ感の強い#5「Guy Song」や#8「Take No Action」、リフの魅力を前面に押し出した#4「You And Me」、#11「The Kaleidoscope」や#14「Hard Night」、朦朧状態のヴォーカルが浮遊するダウナーな#2「Her Song」や#9「Newspeak」、広がりのあるメロディとクリーンなギターサウンドを擁する#6「Jaded」や#13「Trench Warfare」、となかなかに触れ幅の大きく、良く練られて隙の無いアレンジがなされた楽曲が絶妙な曲順によって並んでいる。どの曲にも共通するのはバンドサウンドとヴォーカルががっちりと噛み合っている事で、透明感があってとても美しい声質ながら粗い紙やすりで削ったかのようなザラリとした刺々しさも含むヴォーカルの魅力と、タイトで堅実だが不思議と小さくまとまっている印象が薄く、音圧を上げるところと隙間感を見せるところのメリハリが効いたバンドサウンドの格好良さが非常に良い相互作用を起こしている。
完全にメジャー仕様のクリアで丁寧なサウンドプロダクションからは優等生的な雰囲気も漂うが、ポップさを第一に考えながらもストーナーロック特有の毒気と色気もしっかり音像に含ませてあるバランス感覚はとても好感の持てるもの。何と言うか、信頼の置ける若いバンドが十分に持てる力を発揮したアルバム、と言う感じで、あまり重い内容ではないだけに気軽に長く聴けそうだと思う。お勧め。



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