Behemoth/Demigod  (ASIN:B00070Q8DQ)

ポーランドブラックメタルバンド、7枚目のアルバム。初めて聴いたんだけれども(なんだか最近そういうのが多い)、これがとんでもなくブルータルで格好良かった。
獣の唸り声のように野蛮で、けれども威厳が備わった低音を轟かせるヴォーカル、呆れるほどの手数で始終ブラストビートを打ち続けているようで、その実かなり細かくリズムのパターンを変えながら聴き手を叩き潰さんばかりに迫って来るドラム、邪悪な巨大建造物か何かを描き出すかのようにスケールが大きいフレーズやあまりに鋭い惨殺リフを撒き散らすギター。いずれも規格外の破壊力と殺傷力で、何を考えているか全く読めなくて、理由なく不条理な暴力を叩き付けられているようで、聴いていてただ圧倒される。
獣性や攻撃性が剥き出しでスマートさは欠片も見当たらない、と言うか殆ど装飾的な部分がない無骨そのものの作りだが、リフの質やソロのフレージング、それに曲の展開のさせ方は大仰と言って良いほど劇的。そして、演奏やヴォーカルに備わる尋常でない負のエネルギーが、その大仰さに全く負けていない。これくらい仰々しい作りの曲にしておかないと、音に篭められた化物クラスの膂力と毒性が上手く聴き手に伝わらないのだろう、と聴き手に思わせるような必然性や説得力がちゃんと音にある、と感じた。あまりに速過ぎて実際の半分のスピードに聴こえるパートが非常に多いが、それが非人間的な速さと鋭さで切り刻まれる激痛の感触と、悪魔的にうねり蠢く真っ黒なグルーヴ(と言って良いのかどうか……。濁流に飲み込まれるようなリズムの引力)、超弩級のヘヴィネスを一度に両方響かせるような効果を及ぼしていると思う。
何から何まで邪悪で凶悪で近寄りがたいと言うか近寄れないイメージしか喚起しないアルバムだが、その割にリピートを誘われるような聴きやすさも備えているのが薄気味悪い。メジャー感のあるクリアでエッジの立った音作り、ラストの#10「The Reign ov Shemsu-Hor」を除けば概ね4分台にまとめて10曲40分に仕上げた無駄の無い構成、ギターソロを上手く絡めつつ細目にリフを繋ぎながら作り上げられた楽曲の練り込み具合、等の要素が「凄いアルバム」を「凄くて何度も聴きたくなるアルバム」に昇華させているように感じた。風格や威厳、対峙しているものを無条件で屈服させるかのような圧倒的プレッシャーだけで力尽くで聴かせるのみならず、聴き手が思わず引き込まれるようなポイントをあちこちに散りばめつつ作ってある辺りはとても上手い。多彩なビート(と言ってもどれも恐ろしく速くて硬いのは一緒)を操り、ある意味ギター以上にメロディアスなドラムの逸脱っぷりが、きちんと曲自体の格好良さに直結するようなプレイにもなり得ているのも凄いと思う。
非常にクリアで聴き取りやすい音質の良さが邪悪で得体の知れない威厳を全く阻害しないのは、スモークの向こうに揺らめく影……と言うような虚飾込みの演出を必要としないだけのカリズマ性や巨大な存在感を確かに持っている証なのだと思う。人間には太刀打ちできない暴力と死の嵐をそのまま音にしたようなアルバム。暴力も極限まで行くと神性を帯びるのだ、とでも言いたげなアルバムタイトルは、実に的確に本作が持つ力を表現していると思う。