Dark Tranquillity/Character  (ASIN:B0006Z3DEY)

ダークでどこか艶っぽいリフ遣いをガツガツと噛み付くような速いビートに乗せて叩き付け、ブラストビートまで使ってブルータルに迫り来る#1「The New Build」のインパクトが甚大。前作「Damage Done」の路線を更に推し進めて老練な構築力と奥行きのある美しさで聴かせるアルバムになるのだろうと思っていたので、この一曲で思い切り予想が裏切られた。ただ、前半の数曲はその「The New Build」のテンションを維持してここ数作を大きく上回る攻撃性を見せるものの、中盤〜後半にかけて、徐々に聴く前に何となく予想していたように勢いよりアレンジの力で聴かせる楽曲が増えてゆく。
キーボードの音色やフレーズを核とする曲が多いのは、ここ数作の作風を引き継いでいると思う。曲調が落ち着いたものになってくる中盤以降は特にその傾向が顕著で、#4「The Endless Feed」、#7「One Thought」、#9「Am I 1?」辺りで聴かれるキーボードの扇情力はとても高い。ピアノ音やニューウェーヴ風の電子音を多用して楽曲を幽玄で神秘的なムードに染め、時に自身が主役に躍り出る鍵盤遣いは実に巧み。プログレ的とは言わないまでも、転調やリズムチェンジを多用しながら曲が展開してゆく中で、鍵盤が曲にしっかりと芯を通して解りやすく仕上げていると言う印象を受けた。
一方、ギターの働きは少々地味。一番華のあるフレーズをキーボードに持っていかれていたり、楽曲の骨子となるはずのリフのインパクトがちょっと弱かったり、またソロももう一つパンチ力が足りなかったり(と言うかソロが音像の奥の方に引っ込められている気がする)、とぱっとしないところが多いように感じた。つまるところ、ギターサウンドは全体的に刺々しさが足りていないんだけれども、デスヴォイスが唸り、ギターがざくざくと攻撃的ながらメロディックなリフを刻み、リズム隊はタメを挟みながら突進する、と言うメロディックデスメタルド真ん中のスタイルを取りながらも暴力性は不思議と薄い本作には、このギターはやはり良く合っている、と言うような気もする。このバンドらしい陰惨な美しさのあるリフはあまり多くないが、ヴォーカルやリズム隊と絡まり合いながら楽曲を紡ぎ上げるツインギターのコンビネーションは、それでも十分に格好良いと思えるし。また、攻撃性と言う面では疑問を覚えるものの、力が外側に爆発するのでなく内側に篭って鬱屈してゆくような内省的でじめじめした暗さは、ギターの出音によく表れていると思う。
ギター周りに多少の物足りなさを感じなくはないが、アルバムの完成度は流石に抽んでて高い。複雑さを複雑さと感じさせずにキャッチーなフックに変えてしまう楽曲の構成力も、序盤にガツンとインパクトのある曲をかましておいて段々ムーディでミステリアスな空気に聴き手を巻き込んでゆくアルバム構成も優れているし、どの曲にもしっかりとこのバンドらしさを封入した上で曲調は幅が広い。押し潰すようなリフとスロウテンポで始まりながらサビではメジャーコードのフレーズと軽快なビートに展開する「The Endless Feed」、比較的シンプルな8ビートが何故か新鮮な#6「Mind Matters」、そしてラストの美しい#11「My Negation」など、とにかくキャッチーで耳に残る曲が多く、それでいて造り込まれたアレンジなので聴き込み甲斐も十分。持てる力が十全に発揮された力作、だと思う。