Angra/Temple Of Shadows  (ASIN:B0002CHPKO)

傑作。その一言で話が終わる程の傑作。前作「Rebirth」も凄かったが更にその上をゆく出来栄えで、改めてこのバンドの持つ力を見せ付けられた気がする。イントロの#1「Deus De Vout!」から完全無欠のスピードメタルチューン#2「Spread Your Fire」に雪崩れ込む、と言う(お馴染みとは言え)高揚させられる展開以下、全13曲66分に一瞬たりとも緩みが無い驚異的な完成度。
何と言っても、緩急の付け方が見事だと思う。速球の#2「Spread Your Fire」、高速スライダーの#3「Angels And Demons」、ややテンポを落としつつもエッジの効いたスローカーブと言った趣の#4「Wating Silence」と攻撃的ながら各々にタイプの違う曲を3連発で叩き付けたのちに#5「Wishing Well」の牧歌的で明るいムードで一旦テンションを緩め、再びカイ・ハンセン参加の#6「Temple Of Hate」でギアをトップに上げる、と言うこの前半の流れが最高。一曲一曲の完成度がとにかく高く、曲がそれぞれに独立していながら大きな曲の中の一部として機能しているように感じられるのが良い。また、そこかしこにDream Theaterを連想させるプログレメタル的なフレーズが散りばめられているのも効果的だが、#7「The Shadow Hunter」や#11「Morning Star」などの大曲ではプログレメタルのルーツ……YesやGenesis辺りのシンフォニックなプログレッシヴロックの影響を直に受けている印象も強く、そこがまた好み。
後半も攻撃的な曲と叙情的な曲を実にバランス良く配置させて劇的で大きなうねりを作り上げているが、特に素晴らしいのは緩急の緩、叙情的な曲の方。ラテン音楽の要素が今までの作品以上に巧みに織り込まれていて、繊細ながらも攻撃的で美しいネオクラシカルメタルとラテン音楽の融合は更に洗練されていると感じた。土の匂いがするブラジリアンなビートもさらりと優美に聴かせてしまう辺りは流石で、ボサノヴァやフラメンコやクラシックの香りが色濃いアコースティックギターの調べは本当に美味しい。殊に#10「Sprouts Of Time」の美し過ぎるピアノとギターの絡み、#12「Late Redemption」での「このアルバムのクライマックス」を強烈に主張する余りにエモーショナルな様式美ギターソロには否が応でも感動させられる。
曲の完成度もさる事ながら、ストーリーテラーであるエドゥ・ファラウスキのヴォーカルも前作以上に素晴らしい。「Rebirth」ではどこか遠慮がち、と言うか前任者を半ば意図的になぞっている印象があったものの、本作では全開。柔らかい歌い回しから芯の太い男性的で朗々とした歌唱までしなやかかつ自由自在で、こう言う変化と起伏に富むアルバムで特に力を発揮する歌い手だと言うのがよく解る。無論、楽曲と歌唱を支えるバンドサウンドの強度も文句なしで、リズム隊の格好良さ(特にベース)も印象深い。
褒めてばかりだと文章の説得力が薄れそうなので、問題点を半ば無理矢理挙げてみようとしたがそれも出来なかった。それくらいの、これ以上望めない程に隙の無いアルバムだと思う。前作ではキーボードのチープな音や軽いサウンドプロダクションに弱さがあったが、それも随分と改善されているし。メロディックヘヴィメタルのド真ん中を打ち抜きつつもメタルの多様性を実感させてくれる一枚で、聴いているとヘヴィメタルが好きで良かった、と心底思える。