Spiritual Beggars/Demons  (ASIN:B00077D8SC)

おおよそ2年半振りの6thアルバム。前作「On Fire」は自分の中で未だに良いと思えないアルバムなので、本作もさほど期待値の高くない状態で向き合ったんだけれども、これがなかなか悪くない……と言うか、良い。かつてのルーズでサイケでヤクザな方向性は既に見られないものの、非常に高品質で本格的なハードロックアルバムに仕上がっている。
全体的に、かなりソリッドな作り。硬質でヘヴィメタル寄りな音作りになっている事と、新しく加入したシャーリー・ダンジェロのベースの出音がそう感じさせる理由なのだろうと思う。その一方でJBの歌うメロディは逆にどこかマイルドなものが多く、硬軟の対比がダイナミズムを生み出している、と言った印象。前作の、レイドバックし過ぎ、リラックスし過ぎたような曲作りのユルさとは一掃されていて、緊張感が戻っているところは非常に良い。
今回は単純に格好よくて覚えやすいリフが多く、エモーショナルなソロも長過ぎず短過ぎずで実に巧みなギター、豪快なヒットで艶のある派手なグルーヴを叩き出すドラム、暴走気味にソロをねじ込んだりするのも良いが音そのものが何とも言えず格好良いベース、オルガンを主に据えた抜群の雰囲気作りの上手さと、ギター以上に印象的なソロが耳に残るキーボード……と楽器隊個々の格好良さが非常にはっきりと解るようになっている。プレイの良さがそのまま曲の格好良さに結び付いているのは、リフとグルーヴ(つまりは演奏そのもの)で勝負する、と言う彼らのごくシンプルなスタンスも理由の一つだろうが、それ以上にやはりツボを抑えた曲作りの妙によるものだと思う。巧い、と唸らされるような場面が幾つもある。また、JBのヴォーカルが前作よりもずっとバンドサウンドと一体化しているのも好印象で、深みのある魅力的な声質や驚異的に巧い歌唱がバンド自体の魅力に直結している。要するに、(とても曖昧な言葉だが)バンドのケミストリーがちゃんとある、という事とだと思う。
70年代のハードなロックをモダンな手触りで提示すると言う方向性は相変わらずだが、Arch Enemyの方でも使えそうなリフとソロを持つ#3「Salt In Your Wounds」と最もヘヴィでデスヴォイス寸前の唸りも飛び出す#10「In My Blood」のような非常にヘヴィメタリックな曲がある一方で、妙に明るいリフとメロディが新鮮な#4「One Man Army」、ルーズなリフに被さる脱力したコーラスがこれまた奇妙な#11「Elusive」、2nd辺りの雰囲気を持ち、ジャムをそのまま曲にしたような#12「Sleeping With One Eye Open」(エレピのソロがめちゃめちゃ渋くて格好良い)、強烈にファンキーなリズムと激重シャッフルが交錯しつつ変幻自在の展開を見せる#7「Dying Every Day」など、曲調は随分とカラフルで聴き所も多い。多彩な曲調で全体的なバランスの良さを見せつつ、タイトでソリッドな音作りにする事でキレ味の鋭さも取り戻そうとしている感じで、実際それはかなり上手く行っている。
何と言うか本格的過ぎて、かつてのニセモノめいた胡散臭さと妖しさ、それに伴う色気は感じられない。それに、ケミストリーと言う掴み所のない言葉にもう一度頼って言うならば、2ndや3rd辺りにあった圧倒的なそれの輝きには及んでいない、とも思う。が、前は前、今は今、とはっきり言える説得力が本作にはちゃんと備わっている。耳と腰をがっちり掴むヘヴィなグルーヴとキャッチーなリフ、印象的なソロ、ソウルフルなヴォーカルが隙無く噛み合って繰り出される楽曲には、確かに「今」の格好良さが篭められている。


なお、国内初回盤には8曲入りのライヴアルバムが付いている。これがまたなかなか格好良くて単なるおまけ以上の出来なので、買うならそちらの方を。しかし、これを聴いていると、フルのライヴアルバムが欲しいと思ってしまうなあ。



あと3〜4枚ほど感想を書きたいアルバムがあるので、ぼちぼち書いて行こうと思う。スピベガとほぼ同日発売のひたすらかったるくて暗くて地味なのが素敵だったあれとか、ジャケが何となく「Natural Born Chaos」に似ている国内ロックバンドの6th(買った当初から書きたいと思っていたんだけれども、なかなか感想が定まらない)、寒い国のマーズ・ヴォルタと言えなくもないあれとか。そう言ったものについて今週は書きます。