Biomechanical/The Empires of the Worlds  (ASIN:B0009ESSJC)

ダークでメタリックな鋭さ、痛覚を刺激しかねないほどの冷たさ、それから自分たちの音を客観視しているような一匙の冷静さ。あくまでヘヴィメタルに殉ずる覚悟の程がよく解る、熱気の篭ったパフォーマンス。それらを上手く融合させて、強い存在感のある音に鍛え上げている、と思う。イギリスのバンドだが、聴いていると、QueensrycheだったりNevermoreだったりIced Earthだったり(ヴォーカルが似ている)と「欧州的な哀感を独自の解釈で鳴らすアメリカのバンド」の名前が思い浮かぶ音で、一度アメリカ的な空気のフィルターを通した上で現代的な欧州メタルを再構築しようと試みている辺りが新鮮で、意欲的。
始終突っ走り続けながら偏執狂的な歪みや唐突な暴発を叩き付けるテクニカルスラッシュ、と言うのが基本スタイルで、したがって非常に音数が多い。しかも、やたらと密度も硬度も高い。とにかく入れられるだけの音は全部叩き込んでやろう、と言うような気合が感じられる。二本のギターは、アクロバティックなソロをあちこちで炸裂させるし常に細かいリフを吐き出し続けているしと相当にテクニカルだが、必然性があってそうしている言う印象が強い。やたらとガチャガチャして忙しない複雑な作りの曲が多い割に、変態的なリフ遣いなどに奇を衒ったところは感じられず、単にこういうものを作りたいからやっているのだ、と言わんばかりのストレートさが音の芯にあるのはとても魅力的。
生々しさが抑えられたソリッドな音作りで、ドラムもギターも徹底的に鋭く細かい刻みで攻めて来るので、自律機械が猛スピードで動き回るような近未来的な映像を思い起こさせる仕上がり。その上、それこそ映画音楽を三倍速にしたかのような滅茶苦茶なオーケストレーションがアルバムの随所で使われるため、余計にサイバーなノワール映画の劇伴と言う印象が強くなっている(実際、映画音楽の影響を受けた曲作りをしているんだとか)。あからさまにデジタルな音使いはしていないが、視界全体を鋼色の構築物が覆い尽くすような音像は、バンド名に冠せられたMechanicalの言葉がまさにぴったりハマるもの。
怒気と殺気の塊のような吐き捨てから、こめかみから血を噴きそうなテンションの高さによる金属的な絶唱まで芸風の広いヴォーカルは、攻撃的であると同時に非常に演劇的。濁声とクリーンな歌唱との割合は大体6:4と言ったところだが、メロディも叙情性を湛えながらどこか乾いていて、バンドサウンドとの相性がとても良い。アルバムのどの瞬間を取っても殺気立っていてモノトーンなギターやドラムの音に豊かな表情を付けるヴォーカルの存在感は大きく、声と音ががっぷり四つに組み合っているさまは聴いていて気持ちがいいし、ラストの組曲「Absolution:Part1〜4」では特にヴォーカルの魅力が出ていると思う。
雰囲気先行の部分がなきにしもあらずで、楽曲単位での魅力はどうかと言われるとそこまででもないのが難だが、無慈悲かつ無機的で荒廃した空気、荒れ狂いながら暴走する破壊的な力の気配など、隙無く構築された世界観は文句無く格好良い。テクニカル、かつエキセントリックな部分は多いとは言え、全体としては正統派とさえ言えそうな真っ直ぐさが見える、今の時代のエクストリームなヘヴィメタルを強く主張するアルバム。