Reflux/The Illusion Of Democracy  (ASIN:B0003035BI)

無理矢理端的に説明しようとするとメタルコアとカオティックハードコアの融合形、そこにスパイスとしてエモとロックンロール……と言った辺りになるのだと思う。細切れなリズムチェンジと場面転換を何度も何度も偏執狂的に繰り返しつつ、スラッシーかつゴリ押しに詰め寄ってくる。ギターはささくれ立ったリフで斬り付け、時に高速フレージングで荒涼サイバー感を演出する。ツインヴォーカルは怒声を吐き出つつ、時にどこか切なく浮遊感のあるメロディを歌い上げもする。こうやって構成要素を列挙してみると今様の最先端ヘヴィミュージックの典型例のような感じだが、聴いていて確かに他とは異なる何か、このバンドならではの格好良さが1stフルとなるらしい本作には篭められているように感じる。
概して、カオティックハードコアの複雑に絡まり合った楽曲やそれを組み立てる高機動な演奏技術には、暴力性と共に緻密さや思慮深さや慎重さが色濃く感じられるものだが、本作は全体的にあまりそういうイメージがない。より過激により攻撃的にと強烈な音を積み上げてゆく思考と鍛錬の産物と言うより、当然のようにこうなっているとでも言いたげに初期衝動のまま突っ走っているイメージの方がずっと強い。音圧に依存していないのでマッチョな印象はかなり薄く、代わりに何かにどうしようもなく追い立てられているかのような焦燥感があるため、その辺りに聴いていてとても惹かれるものがあるのだと思う。上手く言えないが、根本的なところでとてもパンキッシュな感じ。
楽曲の出来は非常に良く、どれもすごく格好良い。不条理かつ何の脈絡もない曲展開や落ち着きが全くないリズム隊のアクロバットな急機動の連続もスリリングながら、あちらこちらでジョン・ペトルーシかと思うほどの弾き倒しが配されているのが楽曲のアクセントとしてとても効果的に働いている。メロディ自体は借り物でさほど面白いとは思わないものの#2「Thoughts Dictate Reality」や#8「There's No Sunlight In My Cubicle」での歌メロの取り入れ方も印象的だし(咆哮の迫力に反して歌い上げるのは巧くないのもいい)。また、全11曲中にインストが3曲と多めだが、#6「-=[*]=-」はUKロックを思わせる耽美さと疾走感を、#9「The Keats Persona」と#10「1984-2004」はプログレメタル的な美しさを取り込みつつ徐々に攻撃的な展開を見せるスケールの大きさを持っていて、ゴツゴツとした楽曲が並んでいながらも一枚のアルバムとしてとてもスムーズに纏まっていると思う。
手法自体が極端に尖鋭的なわけではないとは思う。が、予測困難で緊張感に漲る音には、こうでなければならないと言う必然性や説得力が非常に強く、聴いている時と聴き終わった後の充実感はとても大きい。多少とっ散らかってまとまりに欠けるところはあるが、未完成なところが魅力に転化する居佇まいを持っていると思う。様々なヘヴィミュージックの要素をブチ混み、プログレッシヴな拡散性を持ちながら、最終的にはしっかりヘヴィメタルに着地しているように感じられる点も好印象。
"Rush Meets Metallica"と喩えられるMastodonの影響は見て取れるが、その形容はむしろ本作にこそしっくり来るフレーズのように思う。傑作。