Raredrug/11 Slide 27 Makes?  (ASIN:B000B6CUJC)

日本の二人組ヘヴィロックプロジェクトの、3年ぶりとなる2ndアルバム。極めてストレートな怒りを日本語詞に乗せて叩きつける荒んだヴォーカル、アメリカのラウドロック〜その源流であるスラッシュメタルの流儀を受け継いだヘヴィで攻撃的なリフワーク、その隙間を縫うように繰り出される刺々しいシンセ音、インダストリアルなビート、と言うのが音楽の骨子で、鳴っている音そのものに目新しさがあるタイプではないが、一つ一つの素材の組み合わせ方が非常に独特で、格好良い。ちなみに、ドラムは打ち込みなのだけれども、そうと聞かされなければ(と言うか、そうと聞かされていても)気が付かないくらいリアルで、普通に聴いている分には通常編成のバンドサウンドを聴いているのと何ら手触りに変わりはない。
好みがやや分かれそうな中音域のダミ声で怒りや憎しみや苛立ちを未加工のまま吐き捨てるヴォーカルと、潰れ気味になるまで歪んだギターの鳴りのせいで、ぱっと聴いた時の第一印象はかなりストレートなヘヴィロックと言った感じだが、実際のところは様々な仕掛けが施された複雑な曲作りがなされていて、聴き込むほどに印象が変わってゆく。リフの繋ぎ、リズムの切り替え、不意に現れるアンビエントな浮遊感、不穏なアルペジオで聴き手を幻惑しつつ、そうかと思えばギター・ベース・ドラム・ヴォーカルがユニゾンして一気呵成に突進する、と言った感じで、刺々しく攻撃的だがそれと同時に変幻自在でもある。特にアルバム後半にそういうトリッキーな要素を多く含む曲が並んでおり、比較的シンプルに突き進む楽曲が多い前半から通しで聴いていると、徐々にこのアルバムの世界観に引きずり込まれてゆくようになっている辺りはとてもクレバーだと思う。
ダークで近寄りがたいイメージを撒き散らすようなメロディ遣いが多いが、それでも耳に残りやすいキャッチーさが一つ一つのフレーズにしっかり備わっているのがいい。#2「Half Cock」、#5「Speakill」、それに#10「Relic」などはとても覚えやすいサビメロとザクザクと重い刃物で切り刻むかのようなリフが強固に噛み合ってカタルシスを産むし、ラストの#12「Vista」のいかにもラストらしい哀愁をたっぷりと含んだメロディも非常に印象的。個人的にはアルバム中盤の流れが一番気に入っていて、アルバム中最もストレートな疾走感を持つ#6「Cue」、聴き手を惑わせる3拍子のリズムと怪しげに浮遊するヴォーカルと凶悪なリフとディシプリン的なバッキングが交差する極めて眩惑的な#7「Spiral」、そこから更に怪しさと胡散臭さを増して似非シンフォニックな展開まで見せつつ悲壮感を演出する#8「Unlike」の三曲は本作のハイライトになっていると思う。
打ち込みの装飾音が時折ちょっとチープに聴こえるのと、#9「Multi - Purpus」で言葉がリズムに上手く乗っていないのが気になったが、全体的には聴き込み甲斐のあるタフなアルバムに仕上がっていると思う。細部まで凝り倒したマニアックな曲作りが頭でっかちにならないのはヴォーカルが持つ苛立ちが音像全体に行き届いて音に肉体性を与えているからだろうし、ガナるにせよクリーンに歌うにせよやや一本調子気味なヴォーカルは、押しと引きの対比が絶妙なアレンジの中心に置かれることでその魅力が十二分に引き出されているとも思う。その辺りの匙加減が実に絶妙。ヘヴィだが苦痛を伴うリアルな重さと言うより轟音とグルーヴの快感が重視されているバンドサウンドに耳を傾けていると、楽曲のそこかしこに仕込まれた毒気のある仕掛けが徐々に見えてくる、とても刺激的な一枚。お勧め。


このアルバム、リリースは21日なんだけれどもraredrugさんのご厚意でプロモ盤を頂いたのでこうやって感想を書いてみました。どんな音かって言うのは上に書いた通りで、貰ったからとかそういうのを抜きでこれはちょっとすごいアルバムだなあ、と思う。アメリカのヘヴィロックが好きな方は文句なく楽しめると思うし、Mad Capcule MarketsやWrench、ちょっと方向性が違うがgari辺りも好きな方、ムックとかDir en Greyとかcari≒gari辺りを聴く人にもアリなんじゃないかと思う。