Clue to Kalo/One Way,It's Everyway  (ASIN:B000A1EDAW)

先日感想を書いたNobody「And Everything Else……」(感想はこちら)と非常によく似た同心円状のデザインが描かれたジャケットに目を引かれて、CD屋でこのアルバムを手に取った。すると、そこには「include:Nobody Remix」と書かれたステッカーが貼ってあったので、これは買えということだろうなあと思いながらレジへ持って行った。実際、このアルバムはとてもいい。買ってみて良かった、と心底思えるだけの内容だと思う。
エレクトロニカの手法を通したサイケデリックなフォーク、あるいはソフトロック、と言った感じ。サイケデリックと言っても毒々しくドラッギーな方ではなく、じんわりと、ただし絶え間なく多幸感を神経に送り込んでくれる何ともドリーミーな方の手触り。よくよく聴けば明らかにそれっぽい電子音はそこここに聴こえるし、ヒップホップ以降のリズム感が土台にあることも感じ取れるものの、流して聴いていれば全体的な印象はむしろ非常にレトロかつアナログなもの。びよんびよんと鳴るエレキギターにさらさら掻き鳴らされるアコースティックギター、それにドラムとベース。基本的なロックコンボに使われる楽器を駆使し……と言うか、むしろメインはあくまでも生音、バンドサウンドなのだと思う。その隙間に様々な電子音を織り込んでいるのだけれども、エレクトロニックで滑らかな音たちはとても優しくヴォーカルやバンドサウンドと絡み合ってゆるゆるとした空気を作り出している。甘い夢の中をふわふわと泳いでいるのか浮かんでいるのか、と言った具合の音で、ひたすらに聴いていて心地良い。ギターの逆回転、使い古した電気ピアノ、鉄琴、チェンバロなどを模した音を多用しているのも実に良い演出になっている。
インストのみの曲はなく、楽曲の全てが歌入りで、この歌がまた良い。こう言ったタイプの曲を歌うためにあるかのような、朴訥で何やら引っ込み思案な感じのする声(天性の歌い手と言った風でない、訥々とした歌い方も好印象)で歌われるメロディには、雰囲気モノに陥らないだけの良さ、繰り返し聴いていればしっとりと身体に染み渡ってゆくような温かみがある。たまたまエレクトロニカの手法に長けていたからこういう形式の音楽になっているが、もし打ち込みなしのバンドサウンドだけでも、あるいはひょっとしたらギター一本だけでも、十分に成り立つのではないかと思えるようなメロディと声の良さは大きな魅力。
普遍的な懐かしさを喚起するような音だと思う。誰が聴いても、なんとはなしにその人それぞれの昔の光景を思い出させるような、とても優しい音。流れるように曲が進み、そして一つ一つの音があまりにも滑らかなために曲単位でのフックには欠けるが、その代わりアルバムのどの瞬間を切り取ってもとても心地良く温かみのある音とメロディが必ずある。何かをする意欲があまり沸いて来ない時、眠る前、何か音を流していたいが神経に障る音はちょっと、と言うときに聴くと、この深くて柔らかい音にゆるゆるとハマれる。サイケポップ方面が好きな方は勿論だが、これは誰にでもお勧め出来る一枚だと思う。
ちなみに、ボーナストラックとしてAntimc、Daedelus、そしてNobodyによるリミックスが収められている。いずれもエレクトロニックな手触りを押し出した前衛ヒップホップの色が強い仕上がりで、こっち方面とも大いに関係のある音なのだと言うのがよくわかる。