Opeth/Ghost Reveries  (ASIN:B000AADYYO)

前回のツアーに帯同し、「Damnation」収録曲のキーボードパート再現を担ったペル・ヴィバリ(Spiritual Beggars)を正式にメンバーに迎え入れ、5人編成となって製作された8枚目のアルバム。結論から言ってしまって問題ないと思うが、これは本当に素晴らしい。
ペルが操る種々のキーボードは、バンドサウンドにとてもよく馴染んでいる。ツインギターの隙間に差し挟まれるグルーヴィなオルガンは良い意味での軽さやノリの良さを付け加えるし(オルガンとドラムの相性が特に良い気がする)、メロトロンや電気ピアノは神秘的なムードやレトロモダンな感触で音像を彩る。キーボードの比重が増した事で、これまで以上に70年代サイケデリックロック、ヘヴィメタル以前のハードロックの匂いや色気が強まり、元々持っていたルーツ志向がますます露わになって来ている、と感じた。
その分、表面的な攻撃性だとか音圧だとかは少々減少しているように思うが、これは怒りよりも哀しみに重きを置いた表現を選んでいるためだと思う。断罪と慟哭を表す歪み切った濁声の深みと凄み、魂が遊離したかのような不安げなトーンでのクリーンな歌唱の表現力にも磨きが掛かっていて、二種類の歌い方の落差が産むダイナミズムの見せ方もますます巧みで、エモーショナル。だから、多少ヘヴィネスが減じても本質的なところで軽くなったわけではないし、ギターの陰惨な響きやベースの邪悪な蠢きは何ら変わりがないどころか鋭さが増しているようにも思える。
曲作りやメロディ遣いの幅が広がっているのは、やはりキーボーディストが加入した事による変化、あるいは進化だと思う。中でもそれが如実に現れているのが#3「Beneath the Mire」と#4「Atonement」で、前者は物悲しくも優美で妖しげなAnekdoten風のメロトロンのフレーズが楽曲を牽引する何時になくシンフォニックな曲で、後者はインド風のギターフレーズを使った思い切りサイケな曲。どちらもこれまで聴かれなかったタイプの曲で明らかな新機軸だが、何の違和感もなくアルバムの中に収まっている、と言うかこの2曲の流れが本作のハイライトでないかと思えるほど優れている。また、#6「Hours of Wealth」は歌い方やメロディの動き方にどことなくソウルフルな印象があるのもとても面白い。
このバンドの魅力は、アコースティックな絶命フォークと歪み切ったデスメタルを自在に行き来しながら、ひたすらダウナーな欝展開を繰り広げて極限的な美醜の対比を提示するところ、辺り一面をどこか官能的な死の気配で覆い尽くしてしまうところ、何もかもを彩度ゼロの世界に追いやってしまうところにある。そんな強固な世界観は本作においても変わらない、と言うかますますディープになっているとさえ思う。が、それと同時に、楽曲の多様性を増した事で普遍的なロックの魅力や格好良さを備えるようになって来た、とも思う。もはやゴシックやデスメタルと言った言葉だけでは語れないところにまで辿り着いているが、その一方でどこまで行ってもヘヴィメタルであり、#2「The Baying of the Hounds」や#5「Reverie/Harlequin Forest」等ではOpeth以外の何者でもない圧倒的なオリジナリティと存在感を誇示しているのもまた見事。8曲67分と言う大作主義は相変わらずだが、長い曲と短い曲を交互に織り交ぜる事によって幾分これまでよりも取っ付き易い作りになっているのも非常に良い。ここに来て更にスケールアップした傑作、本物を聴いているという深い満足感を与えてくれる一枚。