Syrup16g vs Vola & the Oriental Machine@8/31、福岡Drum Be-1

今回はちょっと手短に。ってわけでもないが、なるべくシンプルに行こうかと思う。
まず最初に出てきたのは、アヒトイナザワ率いる新バンド、Vola & the Oriental Machineだった。ギターの青木氏以外は3人ともYシャツにタイを締めた出で立ちでステージ袖からやって来て、まず最初にやった曲は明らかにポストパンクっぽくてダンサブルな、まあもっと他に的確な喩えがあるのだろうが俺が知っている範囲で言うなら、ちょっと前のスパルタローカルズに近い曲。イナザワ氏が歌っているところは勿論初めて聴くが、かなり良い声と歌い方をしていた、と思う。格好のせいか歌い方のせいか、全体的に泥臭い感じはあまりなく、スタイリッシュなイメージが強い曲が立て続けに演奏されてゆく。
だが、スタイリッシュと言うのは良くも悪くも逸脱が少ないって事の裏返しでもあって、ライヴが進んでゆくうちに結構普通な感じのバンドだなあと思えてきた。何というか、どうしてもこれがやりたい、と言う切実さが見えにくい感じ。モロにポストパンク風の曲があれば初期Queen of the Stone Ageのようなリフを持つ曲もあり、Ash風の曲があれば氷室京介かと思うようなビートロックっぽい曲もDMBQみたいな曲もあり、と少々とりとめがない。と言うか、バンドが動き始めて時間が経っていないせいか、未整理だった。手練の集まりだけあってバンドサウンドは文句なく格好良いし、ライヴを観ながら聴いている限りでは十分に乗れるしんだけれども、これがCDとなると、さてどうだろうと思う。個々のプレイヤーの演奏は確かに魅力的だが、ライヴの迫力が減殺される音源だと、格好良さが随分と目減りしてしまう気がする。曲自体の良さやオリジナリティは、正味な話さほどでもなかった。
もっとも、そんな風にライヴと音源の落差がちょっと心配になるだけあって、ライヴはやっぱり良かった。特にギターがえらく格好良いと言うかキテレツで、楽曲それ単体だと普通なのにこのギターがそれを良い意味でブチ壊しにする場面がたくさんあったのが良かった、と思う。この人が元々所属していたDownyのライヴを一度見たことがあるが、人の神経をすり減らすような酷い音色のギターを座ったまま弾き倒していた、強烈過ぎるDownyの時のプレイと同じで凄く存在感のあるギターだった。あと、Syrup16gと兼任のドラマー、中畑氏は観ているこっちが大丈夫なのかと思うほど最初ッからエンジンかかりまくりで、すごくエネルギッシュかつラウドな打音を連発していてやっぱりこの人は格好良いなあと改めて思った(まあ、この日はほぼずっとそう思っていたわけなんだけれども)。
全体としては、海のものとも山のものとも……と言うような、まだこれを観ただけでは何ともコメントしづらいもどかしさも残ったが、でもやっぱり観て良かった。青木氏のギターはやっぱりすごく好きな感じだし、件の氷室っぽい曲ではシロップの五十嵐氏が出て来てギターを弾いたんだけれども、自分のバンドの出番以外でステージに上がると出てきただけで面白い人になってしまう五十嵐氏とか、その曲やってる間にイナザワ氏の両手が大層所在なげにそわそわしていたところなどなど、見た目に面白いところもたくさんあったし。今後が楽しみなのは間違いない、と思う。


俺が最初にSyrup16gを観たのは一昨々年の暮れ、「Delayed」リリースに伴うツアーだったのだけれども、その時このバンドは「Hell-See」に収録されている曲を半分以上演奏した。そういう前科があるし、最後のリリースから結構時間も経っているし、何よりchocoさんが書いたライヴレポを事前に読んでしまったので、何となく解っていた事ではあったが、今回のシロップさんはアンコール以前は全てが新曲だった。相変わらず無茶するなあ。ただ、聴き手が馴染んだ曲が演目に全く無い、と言うのはやっている側にも独特の緊張感があるようで、演奏がいつもより更に刺々しいような気はした。
とは言え、MCで「グダグダな演奏を聴かせてしまって……」とか何とか言っていたのに反して、ライヴは良かった。それに、このバンドの曲はどれもしっかりと一本筋が入っていると言うか良い意味での統一感があるので、初めて聴く曲で戸惑う、という事はなかったように思う。サポートギターを入れていた以前の編成から再び3人に戻り、とても安定したバンドサウンドを聴かせてくれた。ギター、ドラム、ベースがそれぞれ押し引きを弁えながら自己主張しつつ、なおもどこまでも主役は歌で、けれども演奏が決してバックバンドになっていない、と絶妙で、殆ど3ピースの完成形に近い。音源では歌メロにどうしても意識が向くので普段はなかなか気付きにくいが、リズムが実はすごく面白い、と言うのも再認識する。
今回やった新曲はハードなギターリフを軸に作られているものが多く、そのリフがどれもえらく格好良かった、と言うのが個人的にたいへんツボな感じだった。妙にダルなツェッペリン風リフとリズムを持つ曲と、アコギを抱えて演奏した2曲のうちの2つ目(途中まで英語で歌っていたもの)、ノイジーなリフの隙間にやたら艶やかなベースのフレーズがさしはさまれていたもの、辺りが特に印象に残っている。本当に、全曲が未聴の新曲のまま本編は終了。


ステージには最初からドラムキットが2つ置かれており、けれどもVolaもシロップも本編ではその2つ目のドラムの前に座る人はいない、となれば、アンコールはどうなるのかってのは、まあ想像出来た。
中畑氏とイナザワ氏が出て来て、まずは丁々発止のツインドラム。中畑氏の「ドラムス……(間を置いて)……イナザワアヒトさん」ってMCは、明らかに狙って外したのだと思う。「ドラムス」の時点で観客から歓声交じりの笑いが出てたしな。まあそれはともかく、このドラムバトルがまた震えが来るくらい熱くて格好良くて、これを20分くらい続けてくれても一向に構わないと言うかむしろ嬉しいくらいだと思っていたんだけれども、しばらくするとVolaとシロップの残り面子が全員出て来て、6人(ベース×2、ドラム×2、ギター×2、つまり「Thrak」が出来る編成)での壮絶過ぎる「リアル」。どうしようもないくらい良かった。6人がかりだとは言え、あれほど破壊的な演奏もそんなにはないだろう、と思えるくらいの滅茶苦茶さで、今日のハイライトは間違いなくこの曲だった。あの編成で「リアル」をやるためにこの面子で回っているのではないか、と錯覚を起こさせるくらい良かった。1度目のアンコールは「リアル」のみ、そして2度目のアンコールでは「パープルムカデ」「リボーン」そしてお馴染み「Coup d'Etat」〜「空をなくす」で締め。2バンドで3時間くらい、何だかんだ言っても終わってみれば大満足の内容とボリュームなのでした。


しかしまあ、今日の主役は誰だったかと言うと、イナザワ氏でも五十嵐氏でもなく、出ずっぱりでおおよそ2時間半ドラムを叩いていた中畑氏だったと思う。最後の最後に憔悴し切った中畑氏がよろよろと退場してゆく際、「おつかれー」って声が掛けられていたんだけれども本当にそんな感じ。力入れて叩き過ぎたせいでスティックが削れて、木っ端を飛び散らせながら叩いている人なんて初めて見たし、両バンドで叩いていたリズムはとにかくパワフルかつ多彩で格好良かった。テクニカルな事は無論俺には良く解らないけれども、目茶目茶なパワーヒッターであるのと同時にえらく細かく、少々トリッキーなリズムの刻みもしてみせる(しかも、どんな時でもひたすらラウドである)人ってのは、多分そんなにいないと思うし。何となく、この人が自分の音楽的趣味を思うまま炸裂させたものを聴いてみたい、と思う。必要ならブラストだろうが何だろうがやりそうだな。



終わった後は、一緒に観ていた人たちと食事がてらちょっと飲む。相変わらず喋りとかその他諸々ぐだぐだですいませんが構ってもらえるのはいつも大変ありがたいというか楽しいのでした。
あと、ざーっと勢い任せで書いたのでこの文章自体がかなりぐだぐだなような気もしないではない。