Flying Rhythms/N'danka N'danka  (ASIN:B000A6KAJA)

久下恵生、ラティール・シー、内田直之によるダブバンドの2nd。ドラム/パーカッション/ダブミックス、つまりはリズム楽器しかいない編成。ただひたすらに鋭いリズムが延々と打ち鳴らされ、そのリズムが脳神経をズタズタに切り裂くようなダブ処理を施されてますます鋭いものになる、と言うユニット名そのままの音楽性は1st同様。展開される音響空間はますますディープに、全体的なクオリティも確実に高まっていると思う。
7曲で44分と前作より随分手短に纏められていて、しかもちゃんと一曲一曲はっきりと表情の異なる楽曲が並べられているので、非常に聴きやすい。曲単位でどうこうと言うよりもプレイが生み出すグルーヴや音の鳴りそのものに意識を払って聴くものではあるが、曲の差別化が図られている事が、ある種のキャッチーさを確かに生み出している。打楽器+エンジニアのみのバンド、と言うのは何やら実験的な事をやっていそうな印象を受ける編成だが、実験的な匂いは希薄で、むしろ非常にプリミティヴでストレートで解りやすいつくり。バンド形態の特殊さ、アートワークの何ともヤバ気な雰囲気に反して、敷居はかなり低いと思う。
このタイミングで音が鳴ったら一番気持ち良い、と言うジャストなタイミングで繰り出されるドラムとパーカッションが渦を巻いてグルーヴを作り、そのグルーヴがめいっぱいディープなダブ処理で更に強烈で覚醒的なものになる。と言うのが44分間ずっと続く。ドラムもパーカッションも非常に表情豊かで、メロディは無くとも打楽器で歌っているかのように思えるような箇所もあれば、実際にトーキングドラムでメロディらしきものが入っていたりもする。ドラムとパーカッションが協力してうねりを作るところも、あるいは丁々発止の真剣勝負を繰り広げるところもあって、聴いていて楽しいし気持ち良い。アフリカンなリズムが強烈な冒頭の#1「Ziar Wavr」からしていきなり持ち味が全開になっているし、ハイハットのみで驚異的な空間を作り出している(しかも、インプロヴィゼーションと言う感じではなく、ちゃんと曲っぽくなっている)ドラムソロの#2「Gallop」、深く深く揺らめくディレイの海の中を低い呟き声が揺らめく超ディープな#4「Home Away」は圧巻。ゆっくり始まって徐々にテンションを高めてゆき、最後には叩きまくり&ディレイの嵐で暴力的なサウンドスケープを作り上げて聴き手の脳髄を揺らすトランシーな#3「Typhoon」と#5「Copacabana」は説明不要の格好良さを持っているし、シンセドラムガ使われている#6「Jungle Mani」は、和太鼓とパーカッションの絡み合いとひゅんひゅんしたシンセ音が呪術的で胡散臭さ満点のムードを醸し出していて、これもすごく魅力的。祈りを思わせるようなラティール・シーの歌が聴ける#7「Assiko」がラストに入っているのが、アルバムのまとまりを良くしているとも感じた。
前作から比べて曲のヴァリエーションが増えていて、全編とにかく表情豊かで、飽きない。グルーヴの迫力だとか飛びまくる音の気持ち良さだけでなく、ごくごく単純な楽しさが加わっているのは大きなプラスだと思う。べらぼうにトランシーなダンスミュージックと言う側面もあれば、打楽器と打楽器の気合が入りまくった応酬による先鋭ジャズのような側面もあって、間口は結構広い。聴く人それぞれによって受け取り方と言うか魅力が違って聴こえるような懐の広さ、シンプルゆえの奥深さを持った傑作アルバム。中毒性は滅法高い。