Rebel Familia/Rebel Familia  (ASIN:B00008CHAB)

元Dry&Heavyのベーシスト、秋本武士とダブクリエイターのGoth-Tradによるユニット、の1stアルバム。Dry&Heavyはともかく、Goth-Tradの方はどんな音なのか未だに聴いた事がないのだけれども、このアルバムは凄まじいまでの気迫が漲る轟音の塊であり、少なくともDry&Heavyとは全く様相が異なる。
秋本武士の激烈に重くて図太いベースと、Goth-Tradが作り出す凶暴なブレイクビーツ、そして過激なダブ処理を施された残響音の嵐、と言ったところ。全曲インストである上、メロディらしきものと言えば、寒々しいシンセ音による簡素かつダークなフレーズがたまに浮かび上がるくらいで、結局殆どの楽曲がリズムと残響音のみで作られている。全体としての手触りは恐ろしくブルータルで、ヘヴィで、そして殺伐として乾き切っていて、打ち込みかどうかなど関係なく、リズムはとんでもなく攻撃的で生々しい。
生々しい、と言うのは大きなポイントだと思う。人の声もメロディも入っていないと無機的なイメージが先行しそうなものだが、このアルバムを聴いていてもそういう機械的で無機質な手触りはあまり感じない。思い切りドライで冷徹ではあるし、ザラザラとした音の質感は荒涼とした感じで、真っ当な人間の気配と言うのがあまり感じられないのだけれども、本作には明確な感情、純然たる怒気が音像の隅から隅まで充満している。背筋が冷たくなるほどの根源的な怒りが無ければこんな音はまず作り出せない、と聴き手に否が応でも納得させてしまうような生々しい感情の表出が、本作の持つエネルギーの根源になっていると感じた。ブレイクビーツは極めて精巧なくせに耳を突き刺さんばかりに刺々しく、どこまでも攻撃的かつラウドである、と言うアンバランスさが凄絶な出来だし、ベースも凶悪としか言いようのないヘヴィネスを叩き付けて来る。音のテロリスト、と言った表現がぴったりハマる。
いかにもダブ的な音響表現もあるが、全体的に土臭さやスモーキーな風合いは薄く、えらく洗練されている。音自体の手触りも、またこういう音によって怒気を表現しようとするところも、非常に都市的。高層ビルが曇天を覆い隠してしまった架空の都市を当てもなく延々と彷徨い続ける、そういう光景が思い浮かぶ音だと思う。インダストリアルと呼ばれる音とも共通する音使いは見られるが、シンセ音がたまに奏でるフレーズが随分とダウナーなので、機械の鋼色よりもコンクリートの陰鬱な灰色がイメージされる、そんな感じ。
救いだとか出口だとか一切音に表れておらず、それだけに本作に詰まっている音塊には圧倒的なカタルシスがある。そんな音なので、非常に取っ付き辛いと言うか聴ける聴けないがあからさまに分かれそうな感じではあるが、基本的にダンサブルではあるし、また滅法格好良いのも間違いない。冒頭のノイズから何とも殺風景なサウンドスケープが展開される#1「Mind War」や、実験映画のバッドエンドを思わせる真っ黒な#8「Stand Alone」辺りのドスが効きまくった低音は恐ろしくクールだし、#7「Gladiator」のノーフューチャーなスピード感溢れるドラムンベースは問答無用の強烈さを誇る。これは、甘いところや生ぬるいところなどカケラもない正真正銘のハードコアであり、ジャンルを問わず攻撃的でブルータルな音が好きな方には是非聴いてみて欲しい一枚だと思う。