Candiria/C.O.M.A. Imprint  (ASIN: B000067F6W)

このアルバムについては以前「青くない飛来物」をまだやっていた頃に感想を書いているのだけれども、たいそう素晴らしいアルバムであるので、と言うか久し振りにこれを聴いたらやっぱりべらぼうに格好良かったので、改めて書いてみようと思う。本作は2nd「Beyond Reasonable Doubt」のリメイクであるDisc1と、ハードコア色皆無の実験盤であるDisc2の二枚組みだが、ここではDisc1について触れたい。
彼らのアルバムは1st以外は一通り持っているが、本作が最も彼らの独特過ぎる魅力が解りやすく、またバンドサウンドの格好良さがよく伝わって来るため、これが個人的には一番気に入っている。Soulflyの影響をモロに受けたようなトライバルな要素、ストレートなラップメタル、ヒップホップ、ジャズ、プログレッシヴロック等などがハードコアを基盤にしつつごった煮的に鳴っている辺りはカオティックコアと呼ばれるバンドたちと共通するところで、彼らが便宜上そこに分類される理由にもなっている。だが、極太で真っ黒なグルーヴがうねりを上げる凶悪なファンクが全ての根っこにある事、緻密な構築美よりもどちらかと言えばその場の思いつきで曲を展開させているような、ジャムバンドがそのままハードコア化したような印象が強い事、そして何より咆哮とラップを使い分ける黒人ヴォーカルやバンドアンサンブルそのものが濃密な艶っぽさと言うかエロさをぷんぷんに漂わせている事で、実際のところ彼らはどこにも属せない極めて特殊な音楽性を持つバンドになっている。
Vo/Gt×2/Ba/Drと言う基本的な編成だが管楽器やエレピを差し挟むタイミングもやたらスマートだし、ぐちゃぐちゃしているようで、実は恐ろしく洗練されたアーバンな居佇まいが感じられるのもいい。複雑系激烈音楽の類は、突き詰めれば突き詰めるほど頭で考える音楽になってゆく傾向があるけれども(もっとも、そこにハードコアの文学性みたいなものが出るって言うのも意見としては勿論アリなのだと思う)、このアルバムを聴いていても全然そういう感じがしないのは、やっぱりグルーヴを成す骨子が完全にブラックミュージックの、しかもどうしようもないくら本物のそれだからだと思う。
メタルやハードコアは基本的に白人の音楽なので、リズムは直線的(或いは折れ線グラフ的)なものがやはり多い。そういう中にあって、このバンドのやっている音楽がどこまでも異質で、そしてだからこそ格好良いと言うのは聴いているとじつによく解る。本当に土台や基礎からして使っているものが全然違うと言うか、格好良いものなら白でも黒でも何でも上澄みを掬って混ぜてしまう、と言う勢い任せの姿勢ではありえない深みがヴォーカルにも演奏にもがっちり刻み込まれていて、彼らのミュージシャンシップの高さが窺える。リメイク前の「Beyond Reasonable Doubt」に比べると録音状態も別物クラスで良くなっているし、演奏の濃度と言うか密度も段違い。曲のバラエティも一番本作が幅広いし、もしこのバンドに興味があるならまず本作を聴いてみるのが良いんではないかと思う、と言うかめちゃめちゃお勧めです。知性を伴った色気だとか、アンダーグラウンドなキナ臭さだとか、真っ黒なクールさだとかをこれだけゴツい音に全部くるんで聴かせるアルバム、なんてのは滅多にない。


……にしても、これを聴いてから去年の新譜「What Doesn't Kill You...」(感想はこちら)を聴くと、やはり薄口だと言う感想になってしまうなあ。4th、「300persent Dencity」と「What〜」は、今聴き比べれば一長一短と思えなくもないが、この2ndのリメイクと「What〜」では前者が一枚も二枚も上だと思える。今年の3月にThe Dillinger Escape Planに帯同した際の来日公演の評判は良かったようなので、ライヴの流れで聴けば新譜の曲も良いのかもしれないが、音源だけ聴いていると微妙な気持ち。