菅野よう子/攻殻機動隊 Stand Alone Complex O.S.T.3  (ASIN:B0009S2PMO)

O.S.T.1がバキバキのサイバーでO.S.T.2はジャジーな色合いが強く、と来て本作は生音重視の作り。いかにもなシンセ音は控えめ、ジャズの要素もほぼゼロになっていて弦楽器が前面に出る曲が多いため、クラシカルで凛とした印象を受ける。と言っても、それはアルバム全体を眺めた時の話で、個々の曲に目を向ければ相変わらず奔放な辺りは流石。
生音重視が云々と前述したが、「Inner Univers」「サイバーバード」に次いでまさしく攻殻サントラシリーズを象徴するような一曲である#2「トルキア」はやはり本作のハイライトの一つ。神経に突き刺さるシンセリフとブルガリアンなコーラスの組み合わせは、聖性を感じさせる一方でどこか胡散臭く、インパクトは強烈。この曲と、音使いからヴォーカルの歌い方まで完全に意図してビョークをなぞった#10「CHRisTmas In The SiLenT GoreSt」が比較的前作までの雰囲気を継ぐ曲だと思う。また、ギター・ドラム・ベースのロックコンボを主軸とした曲には派手なものが多く、サーフロックっぽい出だしからO.S.T.1の「ヤキトリ」のような変則リズムに雪崩れ込む#4「レーザーシーカー」、トランシーな打ち込みのリズムが叩きまくり弾きまくりのリズム隊に切り替わる#5「Break Through」、思い切りヘヴィなベースリフとふてぶてしくも美しいギターのフレーズがやたら格好いい#6「Flying Now」の3連発はいずれもインストだが、演奏に篭められた力とそれを完全に活かし切る曲作りが噛み合ったとても良い曲。特に「Flying Now」はずっしりした重量感はすごく気に入った。
そう言った曲がある一方、エレクトロニカ畑の人がオーケストラを使って曲を作ったような冷たい美しさとビート感を持つ#3「Know Your Enemy」、調律をわざと狂わせたピアノが奏でるドリーミーなフレーズが不気味で不安定で、これまたどこかエレクトロニカの匂いがする#15「スマイル」、むせび泣くサックスの独奏に徐々に疾走感のあるパーカッションやギターが絡んで行く#7「エウロペ」、そして小曲ながらアルペジオが非常に美しいギター多重録音#9「未完成ラブストーリー」辺りのアコースティック楽器主体の曲がアルバムの要所要所に配されてもいて、しかもそれらがどれも印象的なため、アルバム全体としてクラシカルな手触りになっているのだと思う。ただ、そういったアコースティックな楽曲は、いずれも冷え冷えとして近寄りがたいような印象を抱かせるような仕上がりになっていて、電子音を強調した今までのサントラ二枚と聴き比べてもしっかりと統一感があると感じた。
全体的に、幾つか派手な曲はあるもののヴォーカル曲が少ない事もあって、アルバムの流れとしては少々地味な感じ。が、その分本作はアルバム全体の流れがとても良い。じっくりと聴き込めるような、丹念に磨きこまれた曲が多く、また弦楽器の使用率が全体的に高いために#8「半島の東」や#12「Sacred Terrorist」と言った普通の映画音楽スコアのような曲も違和感無くアルバム中に収まっていて、最初から最後までゆったりと聴き入る事が出来ると思う。O.S.T.3枚の流れを考えた時も、静けさと冷たさを感じさせる本作は三部作の締めとして全く文句のない出来。相変わらず素晴らしいです。


毎回、菅野よう子関連の作品の感想を書いたときは触れている事なんだけれども、きえふさんがすごく解りやすいレビューをこちらに書かかれてるので、興味のある方は是非是非どうぞ。
それと、余談。
#7「エウロペ」のサックスは菊地成孔が吹いているんだけれども、この人と菅野よう子の会話ってどんな感じなんだろうか。全く想像出来ない。