Freak Kitchen/Organic  (ASIN:B0009V1HBQ)

スティーヴ・ヴァイにさえも肉薄する北欧の天才兼変態ギタリスト、マティアス・エクルンド率いる3ピースロックバンド。と言った辺りがこのバンドを紹介するのにまずは無難な説明になると思うが、このバンドの認知度が一定の低い水準に留まっているのは、正しくこの「天才/変態ギタリスト」と言う冠が仇になっているからだろう。実際のところ、彼らはトリッキーなギタープレイのみを武器とするキワモノに留まらず、非常に良いメロディと洗練されたバンドアンサンブルを誇る極めて真っ当なロックバンドでもあるのに、奇抜な技巧を喧伝されるあまりにロックバンドとしての強度が正しく伝わっていないと言うのはとても勿体無いと思う。
アルバムの方向性は、前作「Move」と殆ど変わらない。つまり、必要十分なヘヴィネスを各楽器が叩き出しつつも適度に隙間のある(この辺は3ピースと言う最小編成の強みをしっかり活かしていると思う)バンドサウンドと単純に優れたメロディセンスを土台にして、要所要所でトリッキー極まりないギターソロが炸裂する、と言うもの。「奇矯なギタープレイは楽曲の良さをより引き立てるための手段の一つである」と言う考えと、それと一見矛盾する「優れた楽曲は繰り出されるギタープレイを最大限に魅力的に見せるための手管である」と言う考えが完全に両立されてしまっているようにしか思えない、と言うのが何とも面白いと言うか絶妙で、笑ってしまうくらいのケレン味にまみれていながら、まるでギター一本抱えて弾き語りで勝負するシンガーソングライターのような純然たるメロディ志向も見える、稀有な存在であると言うのも前作までと同じ。
どの曲もよくよく聴いてみればどこか変と言うかひねくれているし、ギターは素人耳で聴いても明らかに他の誰とも似ていない音を出しているのが判る。が、それでも、収められた楽曲はどれもやたらとポップ。ヴォーカルを取るマティアス・エクルンド自身の声質が適度にハスキーで非常に耳馴染みが良い事と、あとはやはりメロディ主体で3〜4分にまとめた曲作りの巧みさがこのポップネスを導いているのだと思う。いかにもな北欧っぽい節回しよりも、UKロック的な湿り気を感じさせるものやアメリカンロックの明快さを感じさせるようなメロディ遣いが多い辺りも、あまりクセが強くない仕上がりになっている理由。本作は、幾分メロディがアメリカンな手触りに寄っていて、なおかつ最近のエモの流れも少しだけ取り入れているように感じられる辺りが新味と言えば新味ではあるが、まあそれも本当にほんの一匙の話。このバンドに関してはメロディの使い方と言いバンドアンサンブルの強固さと言い、もう完成形と言っても良いところまで来ているような感じなので、ちょっとした変化は薬味程度の意味合いなのだと思う。無理に新機軸を求めなくても、十分過ぎるほどに楽曲の作り方それそのものがトリッキーだし、頭のネジが数十本まとめて外れているかのような奇矯なフレーズと驚くほどメロウなフレーズを使い分けるソロは、どう間違ってもテクニックひけらかしの自己満足などと言う感想が出て来ないような必然性を持って楽曲の中心で鳴っている。
強いて難点を挙げるとするなら、前々作の「I Refuse」、前作の「Lazor Flower」のような一撃必殺のキラーチューンが無く、各曲の出来が平均化している事か。ただまあ……どの曲も妙な方向に突出し過ぎているためにそう感じるだけなのかも知れない。もう、この人たちに関しては悪くなりようがないので好きにして下さい、とでも言いたくなるような力作。
繰り返すが、変態/天才ギタリストのバンド、と言う説明では彼らの魅力を半分も伝え切れていない。ポップでひねくれた歌ものが好きな方は是非一度聴いてみて欲しいと思う。