Circles End/Hang on to That Kite  (ASIN:B0007RFOQG)

ざっくり聴いて受けた印象は、北欧プログレのあの手触り。朴訥でどことなく垢抜けなくて、ソフトで透明感があって、けれども何か根本的なところで自分が慣れ親しんだ音楽の感覚とは異質で得体の知れないところがある。シンフォニックロックの形式を踏んで作られているところが大きいが、この手のものとして他と一線を画す要素はカンタベリー系の影響も色濃いところ。全体としては、歌ものジャズロックと言った感じだろうか。
変拍子を多用した凝った曲作りにはなっているが、どこか長閑な雰囲気を醸しだすヴォーカルの穏やかに掠れた声質・歌い方と、それからメロディ遣いに見られるポップセンス(ただし、どう考えても洗練されているという感じではなく、何だかほのぼのとしている)は非常に親しみやすいもの。声とメロディラインは両方ともとてもスムーズ、尖った部分がないため引っかかりに少々欠けるところはあるが、どちらかと言えば即効性よりも何度も流し聴きする中でメロディが徐々に染みて来るというような感じ。#6「Charlie」に#9「The Dogfather」とインストが二曲収められているが、これがまたべたべたなジャズロックだったりフュージョン以前のちょっとラテン風味が入ったクロスオーヴァーだったりして、良い感じに田舎臭いのが素敵(念のために断っておくが、これは決して貶しているのではない)。エレピやオルガンの流麗だが少々時代がかった音使い、キーボードとユニゾンしてノスタルジックなフレーズを決めるサックスは思い切りレトロな風合いで、音と音との隙間がかなり多く、どことなくもやがかかっているような微妙にクリアでない音像は、色の薄い晴天の下に広がる田園風景のような感じ。ヘヴィネス、およびラウドネスと言う点でモダンなところが皆無であるため、スピーディな#1「Echoes」や部分部分で不穏なムードを醸し出す#8「Peeping Tom」のような攻めの姿勢を出す曲での切れ味は今一つだが、その代わりに安穏としたエレピの音と優しいメロディが光る#2「Tiny Lights」、とても感傷的な#3「Red Word」、中間部で現れるギターとキーボードの不思議な浮遊感があるユニゾン、それに続くギターソロが印象に残る#5「Long Shot」辺りは歌も演奏もとても良い。一発で耳が持って行かれる、と言う感じでは全然ないが、メロディにせよキーボードが奏でる音にせよ、聴けば聴くほど味が出て来るようになっている。また、どこか曖昧でつかみ所のない雰囲気は確かにカンタベリーサウンドが持っているそれで、そう言った空気やムードそのものが非常に好み。全体的に薄口なだけに、何となく聴き終わってしばらくするとまた手を出したくなるような、そういう感じ。
垢抜けないとか、田舎臭いと言うのは決して貶しているのではない、と上で書いたが、そのためにB級っぽさもまた音の端々から漂ってくると言うのも確かなところ。そういうB級っぽさもまた味、と言い切られてしまえばそれまでなのだけれども、雰囲気モノに陥らないメロディのセンスはしっかり持ち合わせているし、歌と演奏とのバランス感覚にも優れているので、もうちょっとしゃきっと洗練されたものが聴きたい、とも思った。まだこれは2枚目のアルバムと言う事なので、その辺りに今後期待したい。本作は本作でいいアルバムではあるが、もう一皮剥ければマニアックな部分と間口の広いポップセンスがより高いレベルで融合した名盤を出せそうな気がする。