Dream Theater/Octavarium  (ASIN:B0009A1AS2)

Dream Theaterは、今まで大抵は即効性に優れたアルバムを作って来た。ただ、彼らの即効性とはポップネスやキャッチーさとは異なり、一聴しただけで否が応でも納得させられるような、圧倒的な凄みとなって現れている事が多かったと思う。特に、「Metropolis part2: Scense from Memory」「Six Degrees of Inner Turbulence」「Train of Thought」とここ3作ほどは、アルバム全体としてのバランスよりもそう言った凄みや持てる力量を誇示して聴き手を屈服させる、ある意味では非常にマッチョでヘヴィメタルの価値観に沿ったアルバムが続いていた(MP2は、個々の楽曲よりもやはりコンセプトアルバムとしての流れが優先されていたし)が、その流れから、本作は随分距離を置いている。
楽器隊の演奏に大幅に重心が偏っていた前作に比して、明らかにヴォーカルの比重が増した。特にアルバム前半は歌が中心に据えられた作りで、冒頭の#1「The Roots of All Evil」こそ前作のダークな雰囲気と重心の低いグルーヴでゴリゴリと押してくる曲調だが、#2「The Answer Lies Within」がピアノと弦楽器の音でソフトかつ優雅に彩られた完全なバラードである事には驚かされた。続く#3「These Walls」は「Awake」の頃を思わせるキャッチーさと仄暗さ、そして不可思議な浮遊感を備えて動くメロディとキーボード遣いが非常に美味しい佳曲、更に#4「I Walk Beside You」に至ってはジェイムズ・ラブリエのジェントルで伸びやかな歌唱と言い、4分30秒と言う劇的な短さと言い、サビの堂々としたポジティヴなメロディと言い、完全に意図して作られた、優れたポップソングになっている。このように、バンドサウンドと歌のバランスを取って押し引きを心得たアプローチを見せる前半は、ブレーキの外れたいびつな音楽性をブチ上げる事でインパクトを生み出して来た最近の作風とはかなり趣を異にするもの。冷静に考えれば割と普通の曲が並んでいると言う事ではあるが、何やら裏の裏を突かれたようで、良い意味で「やられた」と思わされる。
一方、アルバム後半は幾分重心が楽器隊寄り。スパニッシュなギターに導かれて現れる強烈にヘヴィなリフとヴォーカルが変幻自在に絡む様がとても格好良い#5「Panic Attack」は本作中の言って良い出来。もう大勢の人が指摘している通り、欧州メタル+UKロック=耽美かつ劇的、と言うMuseの流儀を臆面もなく借りて作られた#6「Never Enough」も前曲に続いてやたらテンションが高く、超絶にネオクラシカルなギターと何時になくメカニカルなリズムを叩き出すドラムの鋭さがただのミーハーなパクリで留まらない勢いと力を曲に与えていると思う。#7「Sacrificed Son」は10分をきっちり使ってムーディかつ悲劇的なメロディとがっちりメタリックなリフとグルーヴで攻める、十八番とも言える(彼らにとっての)ミドルサイズの曲で、攻撃的な前の2曲と比べると抑制気味ににじり寄る曲展開にまた別種の格好良さがあって非常に良い。と、ここまでは文句なしだが、24分ある正真正銘の大曲である#8「Octavarium」は展開に緩みがあり、また冒頭のPink Floydを模したスペイシーなSEの出来がイマサンだったり(前も書いたが、ジョーダン・ルーデスはこう言う空間彩色的なキーボード遣いのセンスは豊かとは言えないと思う)盛り上げ方が「The Change of Seasons」や「Six Degrees of Inner Turbulence」と大差ない事もあって少々ダレる。ちょっと緩みがある分だけゆったりと聴けると言うのも確かだが、もう少し緊張感がある締め括りならもっと良かったとも思う。
前述した通り、本作は聴いて一発で「凄い!」となる作りではないが、その代わり、聴くほどに耳に馴染んで来る。キャッチーでバランスの良い作風の方がむしろ遅効性の性質を持つ、と言うのは常に挑戦的な姿勢を旨として来た彼らならではの逆転作用だが、だからこそ時間をかけてゆっくり聴いていきたい。ちょうど「Falling into Infinity」のように、凄みと言う点では見劣りしても、気が付けばとても好きな一枚になっているような気がする。