Doves/Some Cities  (ASIN:B0007735HG)

メランコリックで寂しげな空気に覆われていた1st「Lost Souls」、そこから一気に希望的なムードに展開して見せた2nd「The Last Broadcast」は、いずれもスケール感の大きな音作りや時間をたっぷり使った曲構成を持っていて、言い換えればやや仰々しいところが特長の作風だったように思う。一転して本作は11曲で46分とかなりコンパクトな作り。随分とこぢんまりした手触りだが、壮大な空間表現の代わりにソングライティングの奥深さを得たアルバムだと思う。
安易な喩えではあるが、雰囲気としては1stの暗さと2ndの明るさの丁度中間、と言った塩梅。暗いわけでもなく、けれども明るくもなり切れない薄曇りのメロディが比較的淡々と綴られる。以前のようなダンスビートも控え目で、つまりは全体的に少々地味。ヴォーカルの声質が、綺麗ではあるがどうにも優柔不断な憂いを帯びたものである事ともあいまって、取っ付きやすくはあるものの一言で「ポップ」とは言い切れない空気がアルバムを覆っている。たが、少々の毒気とがらんと頭に響くサイケ感覚を含んだギターがかき鳴らすフレーズ、バンドサウンドの隙間に絶妙に組み込まれたシンセ音は聴き終わった後不思議と耳に残るし、メロディも気が付けば頭の中で繰り返されている、そんな感じ。派手なダンスビートや華麗で重層的なギターノイズのカーテンに必ずしも頼らなくとも、じっくりと良さが染みて来るよう曲を作れている。表面上はコンパクトになったが、音像から感じられるスケールの大きさ、間口の広さは逆に増しているような印象。
元々はハウスユニットだった、と言う出自によるものなのか、バンドサウンドとシンセ音を噛み合せるのが非常に巧み。よく聴かないと生音のみで作ってあるように聴こえるくらいシンセの使い方が何気なく、#2「Black and White Town」や#11「Sky Starts Falling」辺りで何ともナチュラルで軽やかなロックンロールをさらりとやってみせる居佇まいには何やら風格すら感じられる。坂本龍一と共作した(冒頭のどことなく東アジア風な弦楽器からしていかにもな感じ)#「The Storm」のルーズに揺れるリズム感覚、四つ打ちと希望的なメロディの組み合わせが実にいい#6「Walk in the Fire」、切ないメロディが印象的な#7「One of the These Days」など、前作〜前々作の流れを継ぐ曲もあれば、#4「Snowden」や#9「Shadows of Salford」ではMercury RevやSigar Rosを思わせるような箱庭ファンタジーマザーグースみたいな郷愁と寓話性を孕んだ#8「Someday Soon」と曲調は多彩。この辺りも楽曲の幅が広がったと言うか、敢えて単色に染め抜いていたような印象のある今までから一回り大きくなっているように感じた。
音楽性は基本的にそう変わっていないが、明らかによりキャッチーな作風を目指していて、それが過不足なく成功している。そんな、言うは易し行うは難しの見本のような課題を見事にクリアしたアルバム、と言った感じ。繊細だが芯のあるメロディと言い丹念で丁寧な音作りと言い、じっくりと聴き込むのに向いた作りで、芸術品と言うよりは工芸品のような職人肌の巧さが光る。即効性は薄いものの素晴らしい一枚、傑作だと思う。