Silent Stream of Godless Elegy/Relic Dance  (ASIN:なし)

チェコゴシックメタルバンドの5thアルバム。#1「Look」の冒頭、フィルインに導かれて表れる弦楽器の響きを聴いた瞬間に傑作だと解ってしまうような、素晴らしい一枚。
歪み切って低く低く蠢くリフに徹するギター、引きずる重さと優美な軽やかさの両面を具現化するリズム隊、苦悶と威厳を宿す男性デスヴォイスと、声質自体はアメリカでSSWやってそうな口当たりの甘いものでありながら、オーヴァードーズで朦朧状態になったかのように虚ろで真っ黒な歌い方がインパクトあり過ぎな女性ヴォーカル、そして絶望的に暗くてひたすらに美しい弦楽器の調べ。時折鳴り響く哀しげなピアノ音。それらの音が絶妙に絡まりあって生まれるのはひたすらに遅く、重く、暗鬱で、そして華麗な暗黒メタル。ドゥームメタルそのものの引きずるリフを擁しながらもスロウな三拍子を基調とした曲調は正しくDance=舞曲のそれで、それに加えて東欧の民俗音楽のようなリズムがもたらす土着的な祝祭感、陰鬱なアコギのかき鳴らしが呼ぶフォーク/トラッドの要素、ユーロプログレからの影響と思われる極めて繊細で叙情的な音風景、意外にも牧歌的で素朴な情景描写、チェンバーロック由来の幽玄な揺らぎ等などが渾然一体となって提示される。どんよりと濁り切っているのに退廃的な優美さを極める音像は、チェコと言う国にこちらが勝手に抱くある種のイメージとあいまって、何やら吸血鬼が古城で催す後ろ暗い舞踏会のような印象を抱かせるもの。
纏っているオーラに圧倒的な力があり、雰囲気だけで押し切る事も出来るような異形の音楽ではあるものの、楽曲の作り自体も非常に優れている。#1「Look」からして聴き手を一気にアルバムの世界に引き込む強烈な磁力を発しているが、それに続く#2「To Face The End」はMassive Attack「Mezzanine」にも通ずるような不透明な浮遊感とヘヴィなリフの組み合わせ、そして曲後半の弦楽器の乱舞の対比があまりに美しく格好良いし、#3「I Would Dance」と#5「You Loved the Only Blood」、それに#7「Gigula」の躍動感溢れるリズムのインパクトも大きい。更には、虚脱状態の暗黒フォークから悲劇的なメロディの洪水へとドラマティックに展開する#4「Togather」のカタルシスの大きさ、アルバムのラストを飾る#8「Trinity」のメロディが持つのどかで牧歌的な明るさ、と全ての曲がその曲独自の魅力を持っていて、なおかつどの曲においても女性ヴォーカルが歌い上げるメロディは存外にアクがなくて聴きやすい。6〜8分の長い曲と3〜4分の短い曲を交互に配するアルバム構成のおかげで一枚集中力を切らさずに聴き通せるし、リピートを誘われる刺激的な仕掛けとダークで美しい曲想、8分45分と言う絶妙のランニングタイムによって、ずぶずぶと本作が仕掛ける音世界にはまってしまう。
何とも形容しがたい異様な音楽性ではあるが、それだけに強烈な独自性と凄みと麻薬的な魅力をも備える大傑作。ポップミュージックとは切っても切れない縁にあるはずのアメリカのポップス/黒人音楽の影響ははっきり言って皆無で(その代わりに欧州に古くからある白人の音楽はありったけ取り込まれている)、もし「旧い血」や「古い欧州」などと言う言葉を音楽にしたらこうなるだろうか、と感じた。


ちょっと今回はいつもにも増して何を言っているのか解らない文章になってしまっていて申し訳ないんだけれども、これは本当に良いアルバム。こういうとんでもないのが時々出て来るからやっぱりメタルって凄いなあと思ったりする。まあ、メタルと言っても実際は色々な音楽の境界線上にあるような奴ではあるんだけれども。