Boom Boom Satellites/Full of Elevating Pleasure  (ASIN:B0007OE5IC)

約二年半ぶり、4枚目のアルバム。先行シングルから予想された通り、非常にキャッチーかつアッパー、初期の「Out Loud」や「Joyride」に近い手触り。
一枚通して聴いて、まず強く印象に残るのは人の声の部分。#1「Rise and Fall」、#2「Let it All Come Down」、それに#10「Anthem-reprise-」と#12「Stride」と要所要所でゴスペル風のコーラスが大々的に取り入れられているのが耳に残る。また、以前は種々の音の中の一つとして扱われているような感じだった川島道行(g&vo&programing)のヴォーカルの比重が大幅に増していて、ヴォーカルが他の音とは明らかに独立した「歌」となっているように思えた。楽曲の性質上明確なメロディラインと言うものは少ないが、断片的ながら印象に残るフレーズと煽り、それに声質の格好良さは折り紙付き。
このように「人の声」の存在感が際立つアルバムではあるが、だからと言ってオーガニックで自然な手触りになったかと言うと全くそうではない。むしろ、完璧なまでにシンセサイズされた音とブレイクビーツによってびっちりと完全武装し、どこまでも攻撃的なビートと鋭く斬りつけて来るビープ音でゴリゴリと迫って来るイメージが強いと思う。ここ数作の彼らのアルバムには、鬱屈した重さやひんやりと醒めた感触が付きまとっていて、そこが魅力的であった半面、そのヘヴィネスが楽曲の純粋な面白みを伝え辛くしているような印象を受けていたが、本作では持てる力を一気に外に解き放つかのような爆発的エネルギーを持つキャッチーな曲が多い。シングル曲でもある必殺の#5「Spine」と#9「Dive For You」、これまたキラーチューンと呼ぶに相応しい強烈な四つ打ちが飛び交うトランシーな#3「Moment I Count」、マッチョとさえ言えそうな肉体的なビートとヴォーカルの絡みが頭にこびりつく#4「Ride On」、高速ブレイクビーツとソウルフルなコーラスが火花を散らすようなスピード感を生む#8「Propeller」、と言った曲群は、正しくタイトル通りの果てしない高揚感と、力尽くでも聴き手を踊らせてしまうようなエネルギーを生み出す。その一方で、コーラスを多く含んだスケールの大きな曲、何時になくストレートなダブを提示する#6「Route For Exile」等がもたらす広がりや静けさが音風景に幅と奥行きを与えている。どの曲も非常に良く錬られていて、曲順やバランスなども考え抜かれていると思う。とにかく隙が無い。
ただ、自分が彼らに期待していたものは少々薄れているように感じた。それは正しく本作でざっくり切り捨てられている暗さとヘヴィネス、どこか病的な閉塞感の部分で、そう言ったオルタナ色の強い臭いが取り払われているために、本作は彼らならではの色合いが薄れているように思える事が個人的には残念ではあった。何と言うか、ダンスミュージックとしての快楽性や機能性を重視した結果、記名性が弱くなっている、と言うような印象を受ける。
上記のように少々疑問に思えるところはあるが、そう感じられると言う事は、この音がそれだけ強靭な肉体性を備えていると言う事でもあると思う。肉体と直感に直接訴えかける格好良さを持つダンスミュージックにして優れたロックアルバムである事は間違いない。


来月ライヴがあるので、行こうと思う。ライヴを前提した曲作りであるのは明らかで、どの曲も実際に演奏される事で真価を発揮するのだろうと思えるので。