Scar Symmetry/Symmetric in Design  (ASIN:B00077CY14)

「Predator's Portrait」以降のSoilworkのスタイルを踏襲するメロディックデスメタルバンドの1st。一聴してすぐ解るほどにSoilworkの影響を受けており、少なくとも本作を聴く限りは彼らのフォロワーと言う印象だが、その一方で模倣し切れないところから独自性が生まれたりもしていて、なかなか聴いていて面白い。Vo、Gt×2、Ba、Drの5人編成だが、この類の音楽の例に漏れずシンセを曲のあちこちに埋め込んでいる、と言うかバンドサウンドやヴォーカルとあまり変らない比率で鳴っている。あまり工夫のある音使いやフレージングは見られないものの(専任のプレイヤーがいないと言うのが大きいのだと思う)、シンセ音がエレクトロニックだがどこかぬめりとした近未来感を演出する役割を担っている。
本作で最も特徴的なのはデス声とクリーンなコーラスを使い分けるヴォーカル、特にそのうちのクリーンなコーラスの方。地を這うように吐き出す咆哮の頑強さと比して普通に歌い上げる時の声が非常に繊細と言うかナイーヴ、透き通り切れない半透明感のある声質が耳に残る。メロディの方もその声質とよくマッチしたもので、神秘的でメランコリックな翳りを含んだニューウェーヴ色の濃いメロディラインはとてもキャッチーで印象的。#1「Chaosweaver」に最も顕著だが、ヘヴィメタルにとって重要な出鼻のタフなインパクトよりも、ふわりとした軟着陸を目指すソフトな手触りを重視しているようなところがあって、その辺りに聴き手を惹き付ける魅力がある。ソフトと言っても洗練されている感じではなく、むしろもっさりとした垢抜けなさや北欧メタルらしいクサ味も浮き彫りになっているような仕上がりで、斜に構えたり穿った見方をしなくても楽しめる好ましいB級加減とでも言うようなものがある、と感じた。
メロディの良さ、どうにも未洗練な居佇まいと共に、ギターが結構色々な事をやっている辺りも面白い。大抵の曲に入っているギターソロは、フレージングの面白みや泣き具合こそまあまあと言った感じだが、各々の楽曲のイメージを保ったままで楽曲のテンションを底上げするような役割を果たしている。音数多く弾き倒していてもソロが突出せずに楽曲のパーツの一つとして機能しているのは好印象。また、#2「2012 The Demise of the 5th Sun」や#10「Detach from the Outcome」で見せるMeshuggah的なリズムの歪みを起こすリフ、#9「Orchestrate the Infinite」でのアコースティックギターの使い方、べったりしたリズムとのミスマッチが妙に耳に残る#7「Obscure Alliance」のロックンロールっぽいリフなど、なかなか多彩で、アルバムが単調にならないようによく考えられていると感じた。
良いところを挙げようとしても留保付きの表現がつい出て来てしまうんだけれども、実際本作にはあと半歩足りないようなもどかしさを聴いていて感じる。ただ、優れたメロディは全編で聴けるし、曲作りのセンスはとても優れたものがあるのも確かだと思う。リズム隊やギターの刻みに備わる小回りの良さを保ったままで、シンセやコーラスによってデリケートで柔らかい面をより強く押し出す事が出来れば今後相当に面白いバンドになってゆくと思うし、柔らかさと鋭さのバランスは本作においても十分に魅力的。つい何度も聴いてしまうような、ポップと言っても構わない程の気楽さがあるのも良かった。