Impious/Hellucinate  (ASIN:B00031QQ90)

試聴して気に入ってはいたものの何となく買うには至らなかったが、つい先頃ちゃんと買って改めて聴いた。いや、これはかなりいい。剛直で頑強で無骨で、潔さを感じるくらいのトップスピードですっ飛ばすデスラッシュ。無駄な部分は極力削ぎ落とされていて、とにかく音塊が目の前に見えそうなほどに迫って来る様には、虚仮脅しでない迫力が宿っている。リズムにせよギターにせよ、切れ味の鋭さよりも質量そのもので勝負する西洋の長剣のようなずっしりした重さと、ラフで粗暴な居佇まいが格好良い。
基本的なスタイルは2ビートの連打連打連打、ブラストビートも併用しながらひたすら周囲のものを薙ぎ倒しつつ爆走する高純度のデスラッシュメタルで、本当に必要最低限のものしか無い感じ。火砕流のようにヴォーカルと楽器隊の音が一体になって襲い掛かってくるんだけれども、音の分離は割とはっきりしていて各人の音が聞き取りやすい。また、目一杯歪ませていながらもどこかモコモコしているヴォーカルの声質はブルータルではあるものの聴き苦しさがあまりなく、個人的に好みな声質である事もあって、全体的になかなかキャッチーな作りになっていると感じた。多くの楽曲では豪快かつ流麗なギターソロが組み込まれていて、それがまた上手い具合に曲のハイライトになっているのもキャッチーな理由。ただ、前述の通り、余計な装飾が一切排されているのでぱっと聴いた時の取っ付き易さ、派手さはそうでもない。リフの質自体もあまりメロディックなものでなく、前のめりに突っ走れるだけ突っ走って後はばったり倒れるだけ、みたいな容赦の無い姿勢が浮き彫りになっているような、ダークで刺々しいものが多い気がする。
これと言って装飾が無い、とは言っても各曲の差別化はちゃんと図られていると思う。#3「Infernique」の金切り声スクリーム、#5「Show Me Your God!」での邪悪なミドルテンポのグルーヴはアルバムの中で効果的なアクセントになっているし、#2「Wicked Saints」や#9「Bloodspill Revelation」辺りはリフ自体にフックがある。ソロはどの曲においても印象的だが、#8「Needles Nervosa」のそれは特に扇情力が高いように感じた。禍々しい空気を放つスローテンポの大曲、と他の曲と趣が異なる#10「Suicide Park」も、9分も使う必要があるのかどうかはちょっと疑問ではあるもののアルバムの締めとして悪くない。10曲38分間、ただ一様に突っ切るだけでないそれなりの多様さが、ひたすら真っ直ぐにスピードと暴力性を求める姿勢と矛盾無く共存していて、その辺りに、音像の素っ気無さの割に聴き易く入り込みやすい理由がある、と思う。
出音が文句無く格好良くて、曲もそれなり以上にしっかりフックある仕上がりになっていて、何よりきっちり一本筋の通った姿勢の良さが見える、いいアルバムだと思う。こう言った類のものはどれだってそうだが、大音量で聴くととにかく気持ち良くて、運転中に聴くのは少し危険。リズムやリフの切り替えの際に心持ちもたついているようなところがあり、そこに瞬発力やキレの鋭さが加われば更に素晴らしいアルバムが作れるんではないかと思ったりもするが、何にせよ安心してお勧め出来る一枚。