The Blood Brothers/Crimes  (ASIN:B0003035B8)

彼らの音に接するのは初めて。前作はロス・ロビンソンのプロデュースによるラウドロックに寄ったカオティック・ハードコアと聞いていたので、本作もそんな感じだろうかと思いつつ再生したら手触りが全然違っていたので驚いた。大きく変化した、と言う事なんだろうか。
破天荒に飛び回るバンドサウンドは確かに格好良くて聴き応え十分だが、この類のものとしては展開の意味不明さや無茶苦茶さはそれほどでもなく、バンドサウンドそれ自体のインパクトは(十分やりたい放題とは言え)それほどでもない。その代わり高音低音のツインヴォーカルが何より特徴的で、イヤでも耳に残る強烈な存在感を放っている。特に耳を惹くのはメインを張る高音の方で、アニメに出て来る間抜けな悪役の声を思い切り早回しにして極端に高くしたかのようなバカさ加減、トチ狂った変態っぷりで、邪悪だが何故かユーモラスなこのヴォーカルはものすごくインパクトが大きい。コンビネーションの良さも抜群なツインヴォーカルが牽引する楽曲は全体的にシリアスさは希薄で、どことなくワザと真剣にやらずにキッチュな感じを出しているような、或いはもう殆どギャグかと思わせるところがある。が、それが逆に仮面の下にある本物の狂気を匂わせているようで、表層のバカ騒ぎの裏腹に薄ら寒さを感じさせる音だと思う。本気とギャグのバランス感覚から、相当にクレバーなバンドだと言う印象を受けた。
そんな薄気味悪さを感じさせる雰囲気を持つアルバムだが、収められた楽曲はと毒をたっぷり含んだユーモアを持っていて、聴いていて首を捻ってしまうほどキャッチーなのが面白い。恐らく前作以前と比しても随分とストレートになっているのであろう仕上がりで、非常にノリのいいパンキッシュな縦ノリ、ディスコパンクやポストパンクの辺りにも目配りをしているのが感じられるダンサブルなビート、矢継ぎ早だが楽曲を壊さずあくまでフックとして配される変拍子、ところどころで挿入される非常に効果的なキーボードなどを駆使しつつ常にヴォーカルが曲の中心にあり、しかもメロディはポップと言っても問題ないほど親しみやすく耳に残るもの。音のブルータリティに反して、敷居はやたらと低い。#2「Trash Flavored Trash」のコミカルなビートと聴いていて笑ってしまいそうになるほどのシャウト、ポップだが何かが狂っている#3「Love Rhymes With Hideous Car Wreck」、#4「Peacock Skeleton With Crooked Feathers」の踊らせるビートとやたらドラマティックなメロディ、と前半は特に強烈な楽曲が並ぶが、アルバム全編を通して全体的に曲作りの巧みさとメロディの良さと様々な声色を使い分けるシアトリカルなヴォーカルに宿るセンスの鋭さが光る。
暴力性をただひたすらに追求している訳でも、孤高を目指している訳でもないが、確実に何かがおかしい。これはより多くの人に聴かれてナンボのエクストリミティだし、またちゃんとそうなるだけのキャッチーさ、ポップネスがどの楽曲にもしっかりと根を張っていると感じた。妙にセンス良いアートワークに反してアート臭は皆無で、エキセントリックな人になりたがっているような底の浅さも感じられない、気合が入ったブルータル変態ポップ。ニューウェーヴ的な手触りもしっかりと今っぽく、これはかなり間口の広いアルバムだと思う。お勧め。