Wrench/Temple Of Rock  (ASIN:B0002ZF10M)

ドラマーの交代、ベスト盤「Wr99B」のリリースを挟んで、3年弱振りの7th。打ち込みとバンドサウンド、縦ノリと横ノリ、シリアスでハードコアな面とダンスミュージックの享楽的な面、等などの相反する表情を併せ持つ独自のヘヴィロックは健在で、相変わらず一聴して彼らの音楽だと解るユニークな雑食性、強烈なオリジナリティを持っていると思う。
本作は、以前のように打ち込みの音がバンドサウンドの隙間に挟みこまれているというよりも、音像全体に被せられていたり、打ち込み音がバンドサウンドやヴォーカルから独立して聴こえるような印象がある。楽曲自体も#1「Take Away」や#2「Why Don't We Do It Right Here?」、#6「MAKE A FINAL PUSH」など四つ打ちのリズムを強く意識したものが多いため、全体的にダンスミュージック、特にハウス寄りの内容だと感じた。その一方でエッジの利いたラウドなバンドサウンドも健在。交代したドラマーが叩き出す音も特に問題なくバンドに溶け込んでいると思うし(速い曲での性急なドラミングが良い)、攻撃性を上手く薄めて轟音の快感を抽出するギターワークも見事だが、やはりこのバンドはベースが特に良い。前のめりな突進でも、ドスの利いたミドルテンポでも、#8「Infinity Of Dub」でも、とにかくベースの図太くグルーヴィな音は常に耳に入って来て、身体の芯に直接響くような感じ。楽器隊は衝動のままに音を鳴らしているようでいてもその実すごく洗練された音を出しているし、かと言ってスマート過ぎて小奇麗になってしまっているわけでもない。このバランスの良さは以前から彼らの大きな武器だと感じているけれども、その印象は本作を聴いても変らない。出音の気持ち良さは素晴らしい。
バンドサウンドの格好良さの一方で、打ち込みの音の方については今一歩と感じる部分も多く、そこが少し残念。音の使い方が典型的なデジタルロック風で今一つ面白味や新鮮さに欠けると言うのもあるし、打ち込み音がバンドサウンドと溶け合い、音像に奥行きを持たせてトランシーな色合いを強める作用を果たすと言うよりも単に装飾音と言うような感じになっているのもどうも物足りなかった。また、サウンド志向のバンドだと言うのは解るけれども、前作「Overflow」が比較的キャッチーなメロディを持つ曲が多かったのに比べるとメロディの弱さも目立った。何と言うか、4thアルバム「Bliss」や5thアルバム「Circulation」にあった懐の広さや鷹揚さが薄れているようだ、と聴いていて思う。これは個人的な好みの問題だが、本作はデジタル色が強いせいで音像に遊びが無い感じ。無国籍風のトランシーなフレーズが減っているのも寂しいし、もうちょっとダビーな音処理が多くても良いような気がした。
そんな訳で、聴いていて首を傾げるところはあったものの、細かく作り込まれているにも拘らずライヴの強烈な姿が透けて見える音、ヴォーカル、楽曲はやはり格好良く、ただ身体が突き動かされるだけでない曲の旨みもしっかりある。ぱっと聴きの派手さに反して噛み応えのあるアルバム。ガツンと来るような衝撃度はやや低めだが、その分聴きやすくもあると思う。特に、変拍子のようだが良く聴くと4拍子と言う面白いリズムを持ち、血流の速さとテンションが果てしなく駆け上がってゆく#10「Filter Conversation」が絶品。