網の目推定1センチ

エレベータに乗っていた時の話。
何となくエレベータの天井を眺めながら、何を今更往生際の悪いええい天井の染みでも数えていればすぐ終わるわ、などと悪代官検定試験四級レベルの台詞をぼんやり思い浮かべていたら、3Fでエレベータが止まって親子連れが入って来た。子供の方は四、五歳でオーバーオールにピンクのボーダーシャツと言うようなごくごく普通の格好だったが、俺と同年代か、下手したら俺より年が下だと思われる母親の方は何とも母親らしくない出で立ちだった。黒のタイトなタートルネックに黒のプリーツ無しのミニスカート、目の粗い黒の網タイツ、これまた黒のロングブーツ。顔の造作や化粧はそんなに派手ではないものの、その格好で子供を連れて歩くのは随分アンバランスだと彼女達を見た殆どの人が考えそうな感じ。
天井を見るより面白いのでその親子連れを見るとはなしに見ていると、子供が母親の服の裾を掴もうとしている。ただ、背がまだ低いので手を伸ばしても上着の裾に届かず、ミニスカートにも届かず、太股の辺りに子供の手が伸びていた。前述の通り母親は目の粗い網タイツを穿いていて、子供の手は小さい。必然的に、子供は指を網タイツの目に引っかけ、しかも腕の自重を編みタイツに預ける事になる。何と言うか、見ているだけでスリリング。いつ破れてもおかしくない。
その親子は、5Fくらいで降りて行った。母親の後ろをちょこちょこと歩いてゆく子供はやはり指を網タイツに引っ掛けたまま、しかも母親はそれに気付いていない様子。大丈夫なんだろうかあれは、と全くの他人事ながら心配してしまった。
……。
期待などしていない。