Nasum/Shift (ASIN:B00063UEC0)

刃の雨。槍衾。一秒間に100発銃弾を撒き散らす重火器。火炎放射器。そう言った類のもの、目の前にあるもの全てを灰燼に帰すためだけに存在するものがそのまま音楽になったかのような、或いは地獄の釜を開いてしまったような。そういう激烈メタル。前作から軸は全くブレておらず、純粋な破壊力と殺傷力がどこまでも追求されている様はやはり潔い。
生身の人間が一人で叩いているとは思えない凄絶なドラムと、これまた非人間的な絶叫を絶えず放射する業火のようなツインヴォーカルのコンビネーションには聴いているだけで身体がバラバラに切り刻まれそうな凄まじい暴力性が宿る。日頃割とやかましくて乱暴な音楽を好んで聴くこの身としても、彼らの音楽は聴けるか聴けないかの限度ギリギリのところにある。唖然としてしまうほどのブルータリティ。
だが、にも拘らず、このアルバムは非常に聴きやすい。多くの曲にキャッチーで格好良いリフやメロディアスなフレーズが配されていて、それらがベースとドラムとヴォーカルとが作り出すノイズ一歩手前の轟音の中から浮かび上がって来るため、全体の音がかなりスムーズに入り込んで来る。音造りの面で、全体的に幾分クリアになりアングラ臭が薄れていると言うのも聴きやすい理由の一つだが、ギターが叩き出すフレーズが基本的にキャッチーであり、ギターをガイドとしてそれ以外の楽器隊とヴォーカルがブチ撒ける暴虐三昧が耳にストレートに飛び込んで来るような造りになっている、と言うのが本作がとにかく聴きやすくて解りやすい仕上がりになっている一番の理由だと思う。
規格外の暴力性とある種のキャッチーさが驚異的なバランスで両立されている本作からは、彼らのミュージシャンシップの高さが伝わって来る。ただ単に暴力を撒き散らすだけでなく、音に宿る殺傷力をより高めるためにメロディアスなリフを使い、テンポの上げ下げを駆使して楽曲にフックを作り出し、SEやナレーションを用いて曲間の繋ぎを劇的に演出してアルバム全体の流れを生む。そういった緩急を付けることで、重いパートは更にヘヴィに、速いパートは更に速く、より速く、もっと速く……と、体感速度が跳ね上がるような仕掛けが施されている。余りにブチ切れたドラムが全編で暴風雨のごとく暴れ回っているためにどの曲も同じに聴こえるようでいて、実のところしっかりと区別が解るようになっており、一曲一曲がそれぞれ格好良い。速くてブルータルならば何でも良い、と言うような身も蓋もない曲作りと演奏の姿勢を支えるのは、あまりに真っ当かつ真摯な、音楽に対する誠実な態度。聴いていて、暴虐極まりないバンドサウンドにただ立ち尽くす一方で、恐ろしくしっかりした曲作りがなされている、と強く感じる。
本作は前作と比べると泣きが入ったフレーズが多く、得体の知れない狂気じみた熱気よりも統率された激音に潜む冷気と哀しみを強く感じる辺り、違法改造で限度までチューンナップしたメロデスと言った印象も受ける。だが、どの曲でもバンドサウンドは常に暴発しているし、30秒前後の短い曲では曲構成も何もあったものではない一斉掃射を繰り返すので、勿論ヤワになったと言う感じは受けない。Nasum流のヘヴィロック#5「Wrath」、#7「The Deepest Hole」#19「Fury」の寒々しくも叙情的なメロディと慟哭の絶叫、1分に満たない曲ながらモーターヘッドがおかしくなったような#21「Ett Inflammerat Sar」等が特に印象的だが、全編とにかく格好良い、強烈無比かつ問答無用にして論客用無しな一撃。