The Back Horn/夢の花  (ASIN:B0002CHO28)

3曲入りシングル。表題曲はちょっとラテン風味の入ったミディアムファンクナンバーと言えばいいのか、切なげなギターのカッティングとそこはかとなくエロいベースライン、そして今までになく穏やかなヴォーカルが夏も終わりかけのこの時期に良く合う(実際のリリースは一ヶ月前だが)一曲。曲調自体も今までにない雰囲気で新機軸と言って良いと思うが、よれよりもたおやかで女性的な歌い回しに終始するヴォーカルの変化が印象的。今までは、どんな曲にも男性的な攻撃性(と虚勢)が必ずあったが、この曲にはそれが無く、丁寧にメロディを紡ぐ様が新鮮。彼らお得意の激情とは一味異なる情感が込められた曲で、殊に終わり際の美しいスキャットは不意打ち気味に心を打たれた。こんな事も出来るのか……意外だが、実によくハマっている。
2曲のカップリングの内、「針の雨」は表題曲から一転して疾走する非常に攻撃的な曲。ヘヴィロック風リフとスクラッチ風ギターノイズの取り入れ方にはニヤリとさせられるし、突っ走るリズムはやはり格好良い。「レクイエム」は映画「Casshern」で使われたもので、彼らとしてはかなりシンプルで、彼らとしてもかなりメタル度が高いヘヴィな曲。タイプの全く異なる鋭さを持つこの2曲も表題曲と同等か或いはそれ以上に良く、何度も聴きかえしてしまう。痒いところに手の届く美味しいアレンジも相変わらず。
ただ、どうも以前と比べると切羽詰った焦燥感のようなものが希薄になっているのが気がかりではある。「夢の花」は敢えて焦燥や攻撃性を抑えた曲だから良いとして、「針の雨」「レクイエム」と続く従来の彼ららしい曲においても、演奏やヴォーカルから芯の硬さや刺々しさが薄れているような……8割の力でやっているような、そんな印象を受けた。「イキルサイノウ」は良い意味での余裕を感じさせつつも、彼ら本来の焦燥と激情を明確に表現し切った傑作だったが、ここに来てちょっと余裕の方に針が触れ過ぎているのではないだろうか、と聴いていて感じる。3曲ともが佳曲なだけに、姿勢や気迫の面で少々物足りなさや寂しさを感じるシングルだった。制御不能な感情を暴発させるバンドから、高い作曲能力とタイトな演奏と極めて印象的なヴォーカルを武器にする、優れて機能的で自律したバンドに変貌を遂げつつあるのかも知れない。