Candiria/What Doesn't Kill You...  (ASIN:B0002IQ9VY)

間に2ndのリメイク盤を挟んではいるが、オリジナルとしてはおよそ3年振りの5th。前作「300 Persent Density」の濃密なアンダーグラウンドの匂い、不条理で複雑でクールな曲展開を期待しながら聴いたが……これ随分と雰囲気変わってるなあ、と言うのが第一印象だった。何と言うか、ヴォーカルやバンドサウンドから、俺がこのバンドの音を聴いてすごく格好良いと思っていた部分、不協和音と不規則なリズムが作る紅いキナ臭さ、グルーヴに宿るジャジーで黒っぽい艶やかさ……一言で言うと、エロさが減退している。メタル、ハードコア、ジャズ、ヒップホップをぐつぐつに煮立つまでに混ぜて作り上げたブルータルかつエロい音、と言うのが格好良かったのに、音の密度・濃度が低くなってあっさりした味付けになってしまった。全体的にストレートな作りになり、解りやすさは増したと言えるが。うーん。
で。そう言う変化とは別に、#2「The Nameless King」、#4「Remove Yourself」、#6「Down」、#8「I Am」と10曲中4曲でメロディアスな歌を取り入れている、と言うのが本作の大きなポイント。ヴォーカルも、今までの咆哮とラップに加えて、意外な程シアトリカルで達者な歌い回しを聴かせてくれる。その歌メロは割と直接的に泣きを煽るような種類のもので、それが彼らの洗練された居佇まいをやや損ねているような気もするが、#3「Blood」や#5「1000 Points Of Light」のような従来の不条理へヴィネス路線、#7「9MM Solution」のバンドサウンドを用いない完全ヒップホップとさほど違和感なくメロディアスな曲が同居しているのはとても面白いと思う。ダークかつポップなメロディ遣いが何故か「Awake」の頃のDream Theaterを連想させる仕上がりの#6「Down」は、個人的には本作の中でも気に入っている曲の一つ。
これまでのアルバムでは、部分部分で凄く格好良くてクールなところはあっても、それが楽曲の良さに結び付いていないきらいがあったが、本作ではそれは解消されていると思う。歌メロを取り入れ、複雑極まりなかった曲構造はストレートになり、一曲一曲の魅力が解りやすく、キャッチーになった。ただ、楽曲を整理してよりキャッチーに、と言う方向性は間違っていないし、メロディの導入もそれ自体は(ちょっと泥臭いところが出たとは言え)なかなか上手く行っていると思うが、その代わりにこのバンド独特のキナ臭い格好良さや種々雑多な要素が混ざり合って生まれる混沌とした色気が薄れたように感じられるのは痛い。かと言って格好良くなくなったかと言うと断じてそんな事はなく、相変わらずの雑食性が活かされた独自のへヴィミュージックは間違いなく格好良いので困ってしまう。身体を強烈に揺り動かされるような、けれどもただ暴力的なだけでない深みがバンドサウンドから薄れているのは、ひょっとしたらやや低音を抑えて重心を高くしたサウンドプロダクションのせいなのかも知れないが……聴いていて、何とも複雑な気分になる一枚。いや、格好良いのは確かなんだけども。
あと、「Coma Imprint」収録の「R-evolutionize-R」を聴いた時も感じた事だが、ギターが凄く良いソロを弾く。#10「The Ruterford Experiment」のギターソロは、短いながらもスピリチュアルで感動的。