UA/Sun (ASIN:B0001DD0VM)

先行シングル「Lightning」が前作「泥棒」以上にアヴァンギャルドな出来だったので、これより更にアヴァン色が強いアートっぽいものになってたら正直付いて行くのしんどいかも、と思いつつ少し斜に構えてこのアルバムを聴き始めたんだけど、普通に聴けた。と言うかこっちの方が数段聴きやすかった。いや、「泥棒」よりも音とか曲はずっとエキセントリックで先鋭的なんだけど、でもこのアルバムの方が耳にスムーズに入ってくる。前衛っぽさについて回る自己満足の匂い、分かる人だけ分かってくれって言うある種の甘えも感じないし。
フリージャズとチャカポコしたエスニックで土着的なリズムが遠慮会釈なく混ざり合って好き勝手に鳴り響く中で、UAがこれまた好き放題に歌っている感じ。通常のリズムとかAメロBメロサビみたいな曲の流れとかの形式に全然縛られてなくて、聞こえてくる音や歌声がすごく伸び伸びとしている。メロディは童謡のように優しいけれどもキャッチーさは無く、曲展開も全く一様でなく、リズムは平気でズレたりするこのアルバムが前作よりも聴きやすいのは、自由闊達なイメージが強いからだろう。それと、「泥棒」が一曲目の暗く重苦しいイメージから徐々に視界が開けてゆく造りだったのと比べると、こちらは無邪気だったり享楽的だったりとアルバム全体として曲調が明るいのも聴きやすさの理由の一つかも。
UAは子供の声や犬の鳴き声に合わせてえらく楽しそうに歌ってるし(この辺、やっぱり「ドレミノテレビ」で歌のおねえさんやってるのが大きいのかなと思う)、なんか耳慣れない遠い国の音が聞こえてくるけどこっちも楽しそうだし気持ち良い音だし、とキャッチーでないけれども解りやすい魅力がこのアルバムには詰まっている。開き直って既存のポップソングの枠組みをうっちゃってしまったのが良い方向に働いて、かえって意図するところが伝わりやすくなっていると思う。
濃密な生命の気配が漂う空気、そこに響く歌声と音がただひたすらに気持ち良く、時間を忘れる。半歩間違うとスノッブの見本市になってしまいそうなバックの演奏を、あっさりと親しみやすいものにしてしまう優しくて深い歌声はやっぱり付き抜けて凄い。付き抜け過ぎててなんかもう神様の音楽みたいになってるのが人によっては受け付けられないような気もするし、ベスト盤「Illuminate」に収められた曲と聴き比べると間口が狭まり過ぎているような気もするが、俺は前作以上に気に入りました。