Disturbed/Ten Thousand Fists  (ASIN:B000AGTQKO)

小気味よく跳ねながら楽器隊が作り上げるリズムの中にざくざく切り込んでゆくような特異な歌唱法のヴォーカルがこのバンドの特徴であり最大の魅力だったが、それは本作でも変わっていない。曲の構造も音作りも、ヴォーカルの格好良さをいかに伝えるかと言うところに焦点が絞られている。ただ、これまではヴォーカルの存在感に比べるとバンドサウンドが少々弱く、歌の伴奏めいた印象を受ける事もあったのだけれども、本作では楽器隊の出す音も相当に鍛え込まれており、随分箔と言うか格が付いた。リフでゴリゴリと押して来る重低音には確かな迫力が備わってきており、3枚目にしてバンドが持つ格好良さを十全に封入した一枚を作り上げて来たと思う。
売れ線ニューメタルと言われていた事もあったが、本作はもう純然たるヘヴィメタルに限りなく近付いている、と感じた。突っ走るスピーディな曲はないものの、リフの作りやコーラスの重ね方などはモロにメタルのそれ。メロディ遣いもこれまで以上に勇壮と言うか悲壮と言うか、男臭い情感が篭ったものになっている。ここに来てスケール感がぐっと上がり、ヴォーカルにもバンドサウンドにも自信が満ち溢れていて、一度聴き始めると途中で止めるのを躊躇ってしまうような、そんな求心力と勢いを強く感じた。
そう言った空気や雰囲気や気分の問題とはまた別に、楽曲の出来もかなり良く、しかも粒が揃っている。冒頭の#1「Ten Thousand Fists」はDisturbedらしさが凝縮された一曲で、最初のリフに被さるヴォーカルの第一声を聴いた時点で「あ、これはいける」と聴き手に思わせる力を持っている(ついでに言うと、ジャケの雰囲気を完璧に音で表した曲でもある)強力なオープニングだし、#4「Deify」や#6「I'm a Alive」の哀感が篭ったメロディはとても魅力的。弦楽器が入った#8「Overburdened」のような壮大なバラードもこけおどしにならないだけの説得力がちゃんと備わっている。どの曲においてもバンドサウンドの馬力が上がったのがよく効いているが、中でも#11「Land of Confusion」は圧巻で、一番売れていた時期のGenesisのカヴァーをここまで見事にやってのける(フィル・コリンズっぽさも出しつつオリジナリティを主張する歌も実に素晴らしい)、と言うところに2ndアルバム「Believe」からの成長をはっきり見て取れる、と思う。
難点があるとすれば、少々曲数が多過ぎると言う事くらいか。ヴォーカルの特異な魅力を活かす方向に曲作りが特化している関係上、どの曲もメロディの作り方が割と似ているため、14曲56分を聴き通すとちょっと胃もたれを起こしそうになる。もう少し軽めに抑えても十分だったのではないかと思うが、曲数が多く密度が濃いのはそれだけ今このバンドが充実している証拠だとも思う。目立った新機軸や耳を驚かせる仕掛けはないが、真っ向勝負の正攻法でここまで充実したものが作れる、と言うのは確かな実力と勢いとが上手く噛み合ったからだろう。良い意味でスタジアムロック的であり、万雷の拍手と歓声を堂々と受け止めるだけの度量を感じさせるのがとても頼もしい。
リフとメロディを大事にした優れた楽曲とパフォーマンス、びしっと筋の通った音。確実な成長と自信を刻んだ力作。信頼の置けるバンドになった、と思う。