Sleeping People/Sleeping People  (ASIN:B000A0GPH2)

ベース、ドラム、ギター×2と言うオーソドックスな編成(ヴォーカルはなし)から繰り出される音楽性の機軸になっているのはずばりディシプリン・クリムゾン。あの騙し絵的ポリリズムと超絶に変則的かつテクニカルなギターコンビネーションを発展させてより鋭く仕上げたと言うか、リズム隊が生み出すスピード感と刺々しさに溢れるリズムに乗せて、カミソリのようなギターの音が絶え間なく四方八方から襲い掛かって来る感じ。鳴っている音の一つ一つが無法に鋭く、もうほとんど殺気の域に達している凶悪な気迫が音像に漲っており、二本のギターとベースとドラムが時としてバラバラに、時には一糸乱れぬ正確さでぶつかり合っては火花を散らす様は実にクールで殺伐としていて格好良い。聴いていて全く油断出来ない、次にどの角度から来るのか解らない不穏さは殺戮マシーンを連想させる。
演奏自体には陽炎が立ちそうなほどの熱気があるが、ウェットな部分や人間臭いところが皆無で、殺気立ってはいても人の意思の存在があまり感じられないタイプの音だと思う。高純度のエネルギーがぎらぎら光る刃になって飛び交っているような、得体の知れない不気味さとキナ臭さが何とも魅力的。ギターの音も大概だがスネアやらシンバルやらがまた硬質で攻撃的な切れ味鋭く、ヒリヒリと肌を刺す緊張感がずっと続くのが気持ち良く、痺れる。ギターの刻みやドラムの動きは極端に細かくシャープだが、それと同時にやたらと豪快でもあり、小さくまとまっていないところも非常に良く、極めて肉体的なバンドサウンドには理屈抜きで吹っ飛ばされるエネルギーと説得力が宿っている。7曲36分と言う短めのランニングタイムも、ばっさり斬り付けてそれで終わり、とでも言うような素っ気無さがあっていい。
ダブやエレクトロニカを経由した音響処理や空間表現はあまりなく、楽曲の解体〜再構築を楽曲の中で示して見せるメタな手法も取らず、純然たるバンドアンサンブルによる鋭さや攻撃性を聴かせる方向性。また、直線的なリズムはダンスミュージックを通過している感じではなく、そのため今風の音楽とはやや距離を置いているような、非常に尖鋭的であると同時にどことなくレトロなプログレっぽい雰囲気が残っているところが面白い。やっている事はある種のテクニカルメタルと被るところがあるし、キメのフレーズなんかが結構ヘヴィメタリックだったり爆裂ジャズロックっぽかったりもする。その辺りがこのバンドの個性なのだと思うが、そのために好みは分かれるとも思う。ひたすらシリアスなところ、割とゴリ押しな感じで引きの妙味が薄いところでも好き嫌いは出そう。
ただ、聴いていると毛穴が開いて血流が速くなるかのような高揚を覚える強力なロックアルバムであるという事は間違いない。複雑極まりない変拍子のキメを重ねに重ねる事で生まれる強烈なスピード感、聴き手の頭を切開して無理矢理覚醒させるかのような凶悪な音の鳴り、無機質なまでに統制の取れたバンドサウンドの妙はただひたすらに凶暴でクール。自律式殺人独楽×4、みたいなけったいなイメージが沸くのだけれども、この絵面は本作を表すものとしてそれほど的外れではないと思う。しなやかに鍛え込んだ刃物を思わせる鋭さでもって近付くもの全てをズタズタに切り刻む一枚。ただただ格好良い。