Oceansize/Everyone into Position  (ASIN:B000AGL1CU)

マンチェスターの5人組バンドの2ndアルバム。前作「Effloresce」の段階で極めて独創的な音世界を作り出していたが、今回は更にその世界観が拡大・確立されている。ここまでの密度の濃さ・スケール感を独自の手法で表現出来るバンドと言うのは極めて稀だと思う。
とは言え、実は最初に聴いた時は今一つピンと来なかった。一曲一曲ごとに表情が全く異なり、とにかく次に何をやって来るかが全く読めずに翻弄される快感があった前作と比べると、本作は全10曲がより強固な統一感の下にあるため意外性がもたらす楽しさや底の知れなさは目減りしているのがその理由。また、ヴォーカルがギターの音の壁に半ば埋もれるようなプロダクションになっているのが歌声とメロディの美しさを少々聴き手が受け取り辛くしているようにも感じた。それらの変化が前作にあったカラフルなポップ感覚を減じさせており、聴き始めて数回のうちはこの変化に違和感を覚えた、と言うのが正直なところ。
だが、聴き込むほどに良くなって来たというのも確かで、ややキャッチーさが減っている代わりに飛躍的に増したスケール感、3本のギターが有機的に絡まり合って生まれる空間表現の豊かさ、巧みさは見事と言うより他にない素晴らしさ。ヴォーカルがギターに埋もれがちなのがキャッチーさを減じていると書いたが、その一方で轟音ギターノイズとヴォーカルがまるで境目なく一つに溶け合ったかのような分厚く艶のある音の壁を作り出す事には見事に成功していて、途方もない壮大さを生み出している。極めて思索的な音だが、粘度が非常に高くタメとうねりがたっぷり効いたリズム隊が抜群の肉体性と説得力を持っていて、頭の中で考えた音に陥らずにしっかりとロック音楽になっているのも実に良い。
慎重に慎重を重ねて音を紡ぎ織る思慮深さと繊細さ、破壊的ヘヴィネスの凄み、迷宮的なサウンドスケープ。全てが溶け合い、バンド名の通り全てを飲み込む大海となって悠然と眼前に姿を現す、そんな感じ。あらゆる要素がスケールアップした上で楽曲も長めに、と更なる重厚長大路線が採られているが、自由に空を駆けるような飛翔感がある明るめのメロディが増えたために実にスムーズに聴き通せる。冒頭の#1「The Charm Offensive」、恐ろしく複雑なリズムパターンの上で語りかけるように歌いながら徐々にテンションを上げてゆくヴォーカルのカリスマ性、グリグリと唸るベースと壮大なバックコーラスが印象的な#2「Heaven Alive」の快活でポジティヴなメロディ、カオティックコア的な不協和音リフを駆使しつつ変幻自在に曲を展開させる、いかにもこのバンドらしい格好良さが炸裂する#3「A Homage to a Shame」、ポストロック的なビート感覚とサイケデリックで神秘的な浮遊ヴォーカルに妖しい緊張感がある#4「Meredith」、同じくポストロック的なアプローチだがこちらはプリズムのように煌く穏やかな美しさと開放感を持つ#5「Music for Nurse」、どの曲も恐ろしく完成度が高い。収められた音に無駄なものが何一つとしてなく、圧倒的な存在感を持つバンドアンサンブルとヴォーカルが大河のように滔々と流れて行く様にじっくりと浸ることが出来る。中でも圧巻なのはアルバム終盤で、祈りを捧げているかのような静粛な空気を湛えた#8「Mine Host」から一気に視界を広げ、大団円的な祝祭感のあるメロディと空間表現を備える#9「You Can't Keep A Bad Man Down」、#9で終わりかと思ったら更にそこから静と動のあまりに劇的な対比を繰り返してエンドロールを飾る#10「Ornament - the Last Wrongs」、と言うこの3曲の流れは眩暈を起こすほど目映い高揚感を持っている。オープニングからエンディングまで揺るぎない流れがあり、聴き終えたあとはとても心地良い疲労感と達成感が余韻としてしばらく残る。
一聴した時のとっつき易さ、解りやすさはやはり1stに譲ると思うが、2枚目にして誰にも追随出来ない世界観を打ち立ててしまった感すらある大傑作。濃密過ぎるがための息苦しさと言うのも薄く、聴き手が息継ぎをするタイミングにも配慮して緩急が付けられている辺りも見事な、とんでもないアルバムだと思う。気が遠くなるほど広く、大きく、深い。