Downy/無題(Live+DVD)  (ASIN:B0009XE6WQ)

昨年末に活動休止したDownyの置き土産(と言うにはちょっと出るタイミングが遅いが)、50分程のライヴCDと40分ほどのPV+ライヴ映像のDVDの二枚組。
まず、ライヴアルバムについての感想を。昨年の4thアルバムからの曲を中心に、それ以前のアルバムからも代表的な曲を挟んだベスト的とも言える選曲。プロダクションはスタジオ盤と概ね似たような感じだが、幾分ヴォーカルが音像の前に出ており、声とメロディの美しさに耳がゆくような音作りになっている、と思う。スタジオ盤と同じくバンドサウンドはとことん硬質であり、物理的・音圧的なヘヴィネスが極端に突き詰められているが、それと同時に二本のギターとヴォーカルが作り出すサイケデリックで多層的な音の波に聴き手を溺れさせる手練手管も非常に巧み、言うか業が深い。各々の楽器とヴォーカルの強靭なアンサンブルには圧倒的な迫力があり、相変わらずどこか無機質でありながらライヴならではの熱気がしっかり篭められている、と言うのはとても良いと思う。
スタジオ盤とライヴで、曲ごとにニュアンスが微妙に異なっているのが聴いていて面白かった。#1「Underground」や#8「野放し」、#11「猿の手柄」辺りではさほどの違いは見られないが(初期の曲は、細部のアレンジは異なる)、#3「弌」#6「Δ」#10「左の種」はブルータリティに拍車が掛かっており、一方で#9「黒い雨」はスタジオ盤の破壊的なグルーヴがやや抑えられている代わりに耽美でたおやかなヴォーカルとギターのコンビネーションが強調されている感じ。最もライヴならではの格好良さが露わになっているのは#4「Fresh」で、サックスの代わりに頭のネジが数十本まとめて吹っ飛んでいるかのような凶悪そのもののギターソロが聴けるし、曲中間のポリリズムは不条理さを増して聴き手に迫って来る。この曲は明らかに本作のライヴテイクの方が良いと思う。また、4枚のフルアルバムに収録されていない#7「安心」は他の曲と明らかに表情が異なる、極めてストレートかつハードコアな曲。ヴォーカルのスタイルにしてもこの曲のみ叩き付けるような激しいもので、他の曲の暗黒プログレとはまた別種のパンキッシュな攻撃性を持つこの曲もまた痺れるくらい格好良い。
DVDの方だが、一応PVとライヴが分かれているものの、そもそもメンバーに映像担当がいてライヴにおいても映像を常に重ねていたバンドなので、実はPVとライヴ映像の間にそれほど大きな差がない。#1〜3「弌」「Δ」「underground」は抽象的でサイケデリックな映像をメインとしたPVで、この映像が曲のイメージに実に良く合っている。剥き出しの鉄骨、廃工場、鉄線、得体の知れない生き物の内臓を映し出したかのような脈動、そう言ったモチーフが矢継ぎ早に現れる映像はいずれも荒涼として寒々しく、曲が持っている冷たさを見事に増幅するもの。#4〜8「Fresh」「漸」「安心」「左の種」「猿の手柄」はライヴ映像なので演奏している姿がメインだが、やはり実際のライヴでも使われていた映像が重ねられていて、場面によっては#1〜3のPV以上にPVっぽかったりもする。派手なアクションをするバンドでもないので観ている限りは淡々と演奏が進む感じだが、動きが少ない分だけ異様に集中力が高まっている様が見て取れて、やはり格好良い。
総じて、発表するタイミングは少々逸しているとは言えライヴ音源を今改めて出すだけの価値と必然性がしっかり感じられる優れた内容だと思う。元から好きだった人には文句なく勧められる内容だし、今まで聴いたことがなかったけれども興味がある、と言う人がまずこのアルバムから入っても良いかも知れない。CDとDVDの二枚組で3200円とコストパフォーマンスも高く、そういう意味でもお勧め出来る作品。