Lord of Mushrooms/7 Deadly Songs  (ASIN:B000AA7C92)

南仏、モナコ公国のバンド。そんな国にもヘヴィメタルをやるバンドがいるのか、と言うような感慨はともかく(まあ、ヨーロッパの人から見ると日本人がメタルを聴く事の方がよほど奇異に思われるんだろうけれども)、本作は彼ら2枚目のアルバム。解りやすさ、キャッチーさに対する配慮の行き届いた楽曲を、安定した技巧でもってじっくり聴かせてくれる。
アルバムタイトル、それに「Lust」「Gluttony」「Envy」などの曲名が示す通り、いわゆる7つの大罪をモチーフとしたある種のコンセプトアルバム。テーマとしてはガチガチと言うか幾らでも大仰かつシリアスに出来る種類の題材だが、実際聴いてみると楽曲自体はそこまで大仕掛けな感じでも悲壮感溢れる感じでもない。徹頭徹尾シリアスなムードを貫き通す事もなく、大らかな表情を見せてくれるところも多いし、キーボードの入れ方や伸び伸びと歌い上げる柔らかなトーンのヴォーカルなどには明るめのポンプロックの影響もちらほらと見えると思う。テクニカルなパートもあるにはあるが、常にメロディの盛り立てに気を配りながら楽器隊が要所要所で速いユニゾンを決める、緩急を心得たバランス感覚も好印象。
冒頭のミステリアスなコーラスが非常に印象的な#1「Pride」は比較的緊迫感のある曲調だが、そんな曲でもどこか暖かさが感じられる、と言うのはこのバンドの特徴だし強みなのだと思う。隙間多めの音作りがその作風によくマッチしていて、聴いていてとても心地良い。ポップと表現しても全く差し支えないようなメロディの親しみやすさも大きな武器で、どことなくファンタジックな手触りのある楽器隊の音と相性が良い豊かなメロディが全編に詰まっていて、長めの曲にもちゃんとしたサビがあるのはとても良い。
メロディ、アレンジ、演奏、ヴォーカル。どの要素を取ってみても高い水準でしっかりとまとめてあり、自らの長所を心得た上でそれを聴かせる力を備えているが、どうもガツンと聴き手を打ちのめすようなインパクト、引きの強さに欠けている、とも思う。アルバム全体を覆う牧歌的でどこか暖かいムード、敢えて隙間を残す事でキャッチーさを出すバランス感覚、と言うのは確かに長所ではあるが、それが詰めの甘さやユルさにも直結してまっている感じ。ヴィンテージな味わい深さを押し出すのでも、今ここにあるべき音楽と言う必然性と切迫感をアピールするのでもない、微妙なセンスの古さ(特に、キーボードは良くも悪くも垢抜けない感じ)に興を殺がれる事もあるし、メロディ感覚の鮮やかさに思わず聴き入ってしまう一方で、どこかB級めいたチープな雰囲気に首を傾げてしまう事もしばしば。牧歌的な空気、と言うのは魅力的ではあるが、それが過ぎて田舎っぽくなっているところもあるように思う。
ヘヴィメタリックな音の強度と、万華鏡めいた色彩感覚を併せ持つシンフォニックポップ。そんな音を目指していると言うのは聴いていてとてもよく伝わってくるし、出している音は折り目正しく迷いがないが、思い描くビジョンを完全に具現化するところまでは至っていない、と言った印象。だが、魅力的な部分は十分以上に持っているし伸びしろもありそうなので、もう少し洗練が進めば飛躍的に優れたアルバムを送り出せる気がする。