Emery/The Question  (ASIN:B0009X75FG)

キーボーディストを含む、6人組のスクリーモバンド、2年ぶりの2nd。と言う事だが、これはまた何とも突っ込んだ作風だなあ、と思う。どういう方向に突っ込んでいるかと言うと、とにかくポップな方向に偏っている。それも、思い切り偏っている。
スクリーモと呼ばれるスタイルは、絶叫と美しいメロディとハーモニーを交互に繰り出す歌を聴かせる事を何よりも主眼に置く形式ではあるが、それでも、大概のバンドには焦燥感や切迫感をしっかり表現出来る程度のヘヴィネス、ラウドネスが備わっている。それに、ベースやドラムやギターが出している音にはザラっとした手触りと硬い芯のようなものがあって、バンドサウンドと歌が拮抗している、と思う。だが、本作にはそう言った苛烈さが全くと言って良いほどに無い。驚くほどばっさりと激しさが削り取られた音作りで、ひたすらに歌中心のソフトな手触りに仕上がっている。一応、ヘヴィなリフだったりドラミングだったりは使われているものの、耳に引っかかるようなザラつき、不和や焦燥を表す刺々しさは極めて少ないし、要所要所で嘔吐のような絶叫を聴かせるヴォーカルにしても叫び声はかなり弱く、楽曲をより印象的に仕立てるためのフックとしてしか絶叫を使う気がないように思える。このアルバムのヘヴィでハードな部分には何ら魂が篭っていない、と少なくとも自分は聴いていて感じた。
が、それを補って余りあるほど(と言うか、その代わりに得たものとして)、楽曲が優れている。堂に入ったメロディ遣いやアレンジの巧みさは、巧過ぎて逆にあざといと言う印象を抱きかねない程に洗練されているが、それでも不思議と鼻に付く感じがしない。ヘヴィなロックのリアリティ、本物っぽさに色気を残さず、ばっさり鋭さを排除してキャッチーさを最優先しているから、だと思う。声質そのものに得がたい気品と湿り気があるヴォーカルの歌声は絹のように柔らかくて美しく、この声と切ないメロディを聴かせる事のみに焦点を絞った音作り、アレンジは見事に成功していて、何を切り捨てて何を取るかと言うのが非常に明快。その姿勢が嫌味の無さに繋がっているし、潔くすらあるとも思う。
だから、何度か聴いているうちに、最大限ポップな方向に振り切れたこれはこれで一つの冴えたやり方、と思えて来た。実際、楽曲はどれもこれもやたらと良く出来ていて、オープニングとして申し分ない躍動感を持つ#1「So Cold I Can See My Breath」、Disturbedを意識したと思しき歌い方(例のアレっぽい掛け声もちょっと入れている)が耳に残る#4「Studying Politics」、メルヘンチックな3拍子やキーボード遣いが実にいいフックになっている#6「Listening to Freddy Mercury」、刹那げな歌い出しとポジティヴなサビの対比が素晴らしい#10「The Terrible Secret」等など粒揃い。後半に向けて徐々にテンションを高めていく曲順、ちょっとした組曲形式の#11「In a Lose, Lose Situation」、#12「In a Win, Win Situation」をラストに置く構成も素直に巧いと思える。
誰もを圧倒する類のアルバムでは決してないが、気が付くと聴いてしまうし、聴き始めるとしっかり耳を傾けてしまう。ポップアルバムとして優れている証拠だと思う。