The Fall of Troy/Doppelganger  (ASIN:B000A2H9XO)

シアトルの3人組ロックバンド、本作は2ndアルバムらしいが初めて聴いた。3人編成と言っても、音を聴いた印象では3ピースと言う感じではない。と言うのは、ギターが思い切り重ねられていて3ピースならではの隙間感があまりなく、むしろ音と言う音で空間を埋め尽くそうとする作風だから。どの楽器もやたらと鳴らしている音が多く、しかも曲展開は唐突で不規則。聴いていて気疲れを覚えるくらい情報量が多い音世界を、たった3人で作り上げる手腕は見事だと思う。
高音の喚き散らしとハイトーンを使い分けるヴォーカル、ヤスリのようなザラついた音による変則リフとノイジーな掻き毟り、運指の練習かと思うほどテクニカルな速弾きから思い切りヘヴィメタリックでふてぶてしいソロまで、と何でもアリのギター。邪悪なヘヴィネスで地面を揺るがすベース、毎秒何百発かと言うような勢いで刺々しい打音をそこら中に撒き散らすドラム。いずれのパートも、演奏能力・攻撃性ともに相当高く、その上どの音も思い切りささくれ立っている。刃の鋭さと言うよりは針の刺々しさ、痛覚を無慈悲に責め立てるような、そういう感じの演奏と音作りは非常にインパクトが大きい。
好き勝手絶頂に楽器隊が飛び跳ねて辺り一面を薙ぎ払う様は何とも強烈だし、曲の作りは相当以上に複雑。だが、本作が目指すところはむしろ明快過ぎる程に明快で、The Mars VoltaとConvergeを化学反応させて大規模破壊を引き起こしてやろう、と言う狙いがよく解るつくり。いま現在、最も先鋭的で格好良くて聴き手の血を滾らせるヘヴィネス・ラウドネス・スピード感が形成する正三角形に非常に近い音を巧みに作り上げていて、だから、彼らの目論見は概ね成功していると言って良いと思う。しっかり狙ってその狙いを外さない、これが出来る辺り、彼らは確かに優れた嗅覚と音楽的センスの持ち主なのだと思うし、実際本作は問答無用で格好良い。各楽器が一歩も退かない真剣勝負を繰り返しているかのようなバンドサウンドには、凄絶と言って良いほどの迫力もある。
だが、どこか聴いていてあともう少しのところでのめり込めない……と言うか、どっぷりこの音にハマろうとすると何かしら引っかかるところがあって、自分がそう感じる理由は、多分本作がちょっと作り込まれ過ぎているというか、狙いが的確過ぎてあざといところが見え隠れするからだと思う。タイトでバチバチとした音作りはとても分離が良く整合感のあるもので、何がやりたいのかを解り易く伝えてくれはするが、このかっちりした音像もまたどこか物分りが良過ぎる印象に繋がっているような気がする。小賢しいフォロワーのアルバム、として切り捨てて良いものでは断じてないが、あと半歩のところで「本物」になり切れていない、そんな印象を本作からは受けた。
そういう意味では非常に惜しい一枚ではある。ただ、繰り返しになるが本作には間違いなく今最も格好良い(ヘヴィでメタリックな)ロックバンドの在り方、魅力が目一杯詰まっている。それに、こういう音楽をやっていると一曲の中に色々詰め込みたくなって曲が長くなってしまいがちだが、11曲44分となかなかコンパクトに纏めている辺りも、引きを心得ていてとても好感が持てるところ。ヘヴィメタルを通っていないプログレメタル、とでも言うべきこの音楽性はきっと多くの人にとても魅力的に響くと思うし、自分自身これは思い切りツボな感じでもある。上述の、あと少しだけ足りない部分については、次作以降で克服する事を期待したい。