Extol/Blueprint Dives  (ASIN:B0008KLW04)

OpethやThe Provenanceなどと並べて語られる事が多いため、フォークやゴシックを通奏低音とする北欧ならではの寒々しくてプログレッシヴなデスメタルを演っているバンドだと思っていた。が、実際に聴いてみると、確かにそういうところもあるにはあるがそれ以上に独創的な部分も多い、とても新鮮な音だった。本作は2年ぶりの4thアルバム、との事。自分が彼らのアルバムに向き合うのは初めてとなる。
複雑怪奇なリズム、予測不能サイケデリックな曲展開。神経と感覚を揺さぶりつつ脳内奥深くに響くアルペジオと、冷徹でどこかメカニカルなリフワークを正確無比なタイミングで使い分けるギター。デス声と言うほどの歪みはなく、「スクリーム」と表現する辺りが適当と思える咆哮と、自らが催眠状態のまま聴き手を催眠術にかけるかのように虚ろな浮遊感のある歌唱を交錯させるヴォーカル。控えめだが的確なキーボード遣い。それら全ての要素に共通しているのは、極端に熱量が少ないところ。仮にもヘヴィメタルを標榜するならば何らかの熱さが普通はどこかにあるものだが、本作に関してはそういう熱気がごっそり欠け落ちていて、徹底的に醒めている。決してキャッチーとは言えない異様な動きをするメロディをゆらゆらと普通声で歌うヴォーカルにチノ・モレノビョークを思わせるところがあるので、ダークなトリップホップや最近のDeftonesの虚脱した空気を、荒涼とした北欧プログレッシヴデスの鋳型に溶かし込んだもの、と言った塩梅。ギターの鳴りも、ヘヴィメタリックな音圧で押してくる所があれば、USインディロックみたいなキラキラした音を出している所もあって、モノトーンな風合いながら陰影はくっきりしている。クールで、洗練されていて、格好良い。
鋭い着眼点と豊かな音楽的素養、多様な知識がなければこんなアルバムは作れないのは聴けば一目瞭然。ノーマルな歌唱がメインの#1「Gloriana」や#4「Pearl」等は、ポップとは言い難いものの非常に印象深い曲に仕上がっているし、演奏技術、音像全体から滲み出てくるバンドの格、いずれも申し分ない。
と、ここまでだけなら傑作と断言したいところだが、本作には非常にまずい欠点がある。それは、どの曲も起承転結が曖昧でつかみ所がなく、楽曲がきちんと完結していない、と言うところ。全編これ優れたセンスの塊のようなアルバムなんだけれども、そのセンスの良さに溺れてしまっている印象を受けた。近寄りがたい雰囲気はあっても孤高の高みに上り詰めていると言う感じでもなく、聴き手に歩み寄る姿勢に乏しい感じ。そのため、曲を構成するパーツの一つ一つは滅法格好良いのに、それが曲自体の魅力になっていない、と言う欠落が殆どの曲に見られたのは残念だった。
音世界に入り込みやすくする配慮、自己満足の半歩手前で踏み止まる謙虚さがほんの少しありさえすれば、とんでもない大傑作になっていたと思う。明るさの見えるメロディを使いながらヘヴィで虚ろな感じを表現している#9「Essence」など、生半可な才能では作れない曲だと思うが……それだけに、この散漫さは非常に惜しい。だが、ぽっかりと虚空に空いた穴に吸い込まれてゆくかのような虚無感が色濃く漂う音像がとにかくクールで、醸し出している雰囲気は極上かつ無二なのも確か。非常に痛い欠点があるとは思いつつも、個人的にはとても気に入った一枚。



公式サイトもえらく凝ってて手間が掛かっててセンスがいいが、やたらと重い作りでナローバンドの人は完全に置き去り、と言うのがいかにもな感じ。なんて言うか、本当に自信満々ですねこの人たち。確かにそれだけの自信に見合う実力が備わっている事は十分窺えるが、しかしなあ……(以下無限ループ)。そして、またノルウェーか。Circle's End(感想はこちら)もCircus Maximus(感想はこちら)もそうだったし、最近本当にノルウェーの妙なバンドに行き当たる事が多い。