森博嗣/ダウン・ツ・ヘヴン  (ISBN:4120036448)

読みました。「スカイ・クロラ」は全部読むのに10日くらい、「ナ・バ・テア」は一週間くらいはゆうに掛かったが、これは正味2時間強で読めた。そろそろこのシリーズのスタイルに自分が慣れて来たと言うのもあるとは思うが、単純に「スカイ・クロラ」より「ナ・バ・テア」の方が分かりやすいし、「ナ・バ・テア」よりも「ダウン・ツ・ヘヴン」は更に分かりやすいと思う。それでもなお、恐ろしくソリッドで不連続な感じではあるんだけれども。
この話の背景世界、戦争や会社や社会についての説明が大幅に増えているが、今までおぼろげだった世界観が徐々に明らかになってゆくと言う緊迫感や面白さはなく、単に「戦闘機乗りにとって余分な混ざり物が増えた」と言う感じ。このシリーズは冊数を追うごとに段々ピュアでなくなって不純物が多くなっているし、ロマンティックでなくなってゆくのと同時にセンチメンタルになってゆくし、自由に空を飛ぶシーンよりも不自由な地上に縛られるシーン(と、だからこそ空を飛びたいと言う切実さ)が増えているような気がする。で、つまるところ分かりやすく読みやすくなっているのはそういう変化が理由なのかなと思う。しかし、自由よりも不自由の方が分かりやすくて共感の余地がある、と言うのは良い事なのかそうでないのか。
それにしても、このシリーズは装丁とタイトルが本当に素敵。並べて眺めて楽しくなるような所有欲に駆られる本、ってのは俺は滅多にないと言うかまるきり皆無なんだけれども、この本は持っていたいしたぶん売らない。「スカイ・クロラ」は今まで新書版しか持ってなかったんだけれどもハードカバーを併せて買ってしまった。新書版の表紙と口絵を描いているのは鶴田謙二だけれども、この人の絵でもこのシリーズの透明感にはちょっと届かないとも思っていたので、思い切って三冊揃えてよかった。