Gospel/The Moon is a Dead World  (ASIN:B0009CTTRO)

大雑把に言ってしまえばカオティックハードコアの流れを継ぐ複雑系激音を鳴らすバンドの1stアルバム。ConvergeやMastodonThe Mars Volta、それにIsis辺りの影響ははっきりと見て取れるが、「The Dark Side of the Moon」をストレートに思い起こさせるタイトルが示す通りにプログレッシヴロックの影響もまた非常に濃いのが特徴的だし強みでもあると思う。ケイオスコア特有の不条理さは薄く、全体の構成は整然としていて良く練りこまれた印象が強い。ギターのフィードバックノイズやキーボードが奏でるフレーズは、時として驚くほどにロマンティックで叙情的。
8曲で39分。と言うのは結構コンパクトなように思えるが実際には詰め込まれた音の数が極めて多いので聴くとかなりずっしりした手応え。ただ、始終音数を最大にして暴発を繰り返すと言うわけでもなく、実際は伽藍堂に爪弾かれるギターの音だけが虚しく響くような静のパートもあり、動と静の対比が非常に大きなダイナミズムを産んでいる。高音で喚き散らすようなスタイルのヴォーカルには楽器隊の演奏を向こうに回して一歩も引けをとらない存在感があるものの、ヴォーカルのパート自体がやや少なく、全体としてはヴォーカルよりも演奏が主体の曲構成。
楽器隊の演奏はいずれも非常に攻撃的で刺々しく、かなりめちゃくちゃな手数を恐ろしい速さで叩き込んでくるドラムの音圧などは特に凄まじい。不気味な静けさをところどころで織り込みながら猛烈なスピード感のストップ&ゴーで楽曲の骨子を作り上げるだけでなく、多彩なフィルでもう半分メロディ楽器のような勢いで叩きまくっているのが格好良過ぎる。これに相対するギターは、べったりとした暗黒臭を纏って暴れまわりながらも要所要所で抑制を効かせたプレイも聴かせてくれるし、時にはキーボード(ギターの逆回転とかメロトロンとか、わざわざそういう音を模した音色を多用してくる)と共に非常に美しいメロディを奏でるのがすごくツボで印象的。そのメロディは、彼らが範を取ったと思われる他のアメリカのバンドではちょっと考えられないほどノスタルジックかつ叙情的で、それこそKing CrimsonPink FloydGenesisの最もメロウな部分を想起させもするような柔らかさがある。まるで英国のバンドであるかのように湿り気を帯びたメロディの豊かさは彼らの大きな武器で、極めて苛烈な音の塊が集散離合を繰り返しながら複雑に展開し、大きくうねりながら美しい旋律を紡ぎ出すさまにはスケールの大きさとしっかりした楽曲の構築力を感じ取る事が出来る。特に9分の大曲#3「Golden Dawn」と、終盤の#7「What Means Of Witchery」に#8「As Far As You Can Throw Me」の流れは非常に美しく、また格好良い。
色々と固有名詞を引き合いに出して説明してしまったが、決してそれらのバンドの継ぎ接ぎと言うわけではなく、一枚目のアルバムにしてしっかりとした個性を打ち出すことは出来ている辺りはとても頼もしい。既にスタイルが完成されてしまってこの先の発展性には少々疑問を覚えなくもないが、それは本作が非常に完成度も独自性も高い事の裏返し。ダークでキナ臭い音像全体に力が漲っているのがよく解る、非常に聴き応えのあるアルバムだと思う。